川内優輝が今思う、走り続けることの意味=手記・前編

構成:スポーツナビ

メディアに注目されて感じるストレス

世界選手権代表に選出され、川内(写真)が職場の春日部高校で会見、多くの報道陣が駆けつけた 【写真:築田純/アフロスポーツ】

 ストレスを感じないといえばうそになります。特にレース前の集中したい時にカメラに追い掛け回されたり、声を掛けられるのは正直言って疲れます。また、結果が悪かった時にコメントを求められるのもあまり気分が良いものではありません。ただでさえ気落ちしているところに、「今はどんなお気持ちですか?」などとあれこれ質問されるのはつらい時も多いです。「勝った選手の方へ行って欲しい」と思うこともあります。

 また、1回レースで失敗しただけで、それまでの他のレースの結果を全て無視するかのように「レースに出過ぎて疲れが出たのではないですか?」という質問をされるのも嫌ですね。レースの失敗回数で言えば、出場レース数を絞っている選手の多くよりも余程少ないと思うのですが、1度でも失敗すると、ここぞとばかりに自分のやり方を否定するような質問をされるのはキツイです。
 レースでタイムと順位の両方を追い求めることは、現実には非常に困難であると言えます。なぜなら、タイムを出すためには勝負を度外視で、ペースが落ちた際にペースを戻すために集団を引っ張ることも必要ですし、確実に勝つためには、(出場した4月の)長野マラソンのように、タイムを度外視で勝負に徹しなければならないからです。

 一方で、メディアの方々のおかげで、多くの方々に思いを伝えることができるのも事実ですし、注目していただくことで、新しい道や色々な可能性が開けてきていることも事実です。今後も「可能なこと(レース後の記者会見など)」と「不可能なこと(バラエティー番組出演など)」の線引きをしっかりしながら、自分の信じた練習方法で競技をしっかりと頑張ることで、自分自身の思いや練習方法を多くの方々に伝えていきたいと思います。そして、せっかく多くの方々が注目して下さっているので、なるべくレース後などのオフィシャルな場では、できる限り多くの方々と交流して、何らかの「きっかけ」づくりができるように、日本中で多くの方々を後押しをしていけたら良いなと思っています。

「一線を退く」ことについて

 「市民ランナーに引退はない」という言葉は私の好きな言葉です。私の目標は「生涯現役」なので、年齢に応じた目標を見つけながら「日本全国・世界各国市民マラソン巡り」という夢に向かって走り続けていくと思います。そのため、実力的に衰えていき、福岡国際マラソンなどの「参加標準記録(マラソンで2時間27分00秒以内)」を切れなくなった時が、形式的な「一線を退いた」という時期なのだと思います。

日本代表として戦うことへの決意

 数年前、日本の男子マラソンはサブテン(2時間10分00秒を切る記録)が年間1人というような状況で、「女子は良いけど、男子はダメだ」と多くの方々から言われる時代が続いていました。しかし、09年世界選手権ベルリン大会の佐藤さん、11年テグ大会の堀端宏行くん(旭化成)、昨年のロンドン五輪の中本さんと、日本の男子マラソン陣は「ダメだ、ダメだ」と言われながら、世界大会での入賞だけは、きっちりと守ってきました。
 日本の男子マラソンについて語る時、世界記録とのタイム差だけを捉えて、自虐的になる方が多いですが、世界的に見れば日本の男子マラソンはまだまだ強いと思いますし、ペースメーカーなしのレースではタイム差ほどの実力差はないように思っています。

 また、今の22才以下の世代には宮脇千博くん(トヨタ自動車)や丸山文裕くん(旭化成)、設楽啓太くん(東洋大)に服部翔大くん(日本体育大)、加藤泰智くん(トヨタ自動車九州)など、有望な選手が実業団や学生に大勢います。今回の世界選手権では、日本代表として入賞を果たし、「日本の男子マラソンもまだまだやれる」ということをあらためてそうした次世代に見せたいと思います。
 きっとそうして「日本男子マラソンの伝統」をつないでいくことで、日本の男子マラソン界はもっともっと面白くなり、世界とスピード面でも戦える「革新的なランナー」が再び日本から現れるのではないかと思います。

<了>

※後編は18日掲載予定です。

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