JRA降着・失格の新ルール、最大の弊害 蔓延する『初めにセーフありき』の意識

導入から僅か6カ月で起きた不自然な問題

JRAの降着・失格新ルールを再検証、最大の弊害は『初めにセーフありき』の意識の蔓延か(写真は安田記念) 【写真:中原義史】

 導入されて約6カ月が経過したJRAの降着・失格のルール(判断基準)。僅か6カ月に過ぎないが、いろいろと不自然に感じられる事例も起きており、現段階での再検証を試み、また今後の課題点なども考察してみたい。

 まず、ルール変更の経緯、その詳細についてのおさらいから。
 07年にIFHA(国際競馬統括機関連盟)が設置した『裁決事項の調和に関する委員会』では、ルールの国際協調を目的に「シンプルでわかりやすく、より合理的」な基準の導入を目指して検討されてきました。JRAもそれに賛同する形で検討が重ねられ、いよいよ今年の1月から導入、という運びになったわけです。

 具体的には、世界的な基準として2種類あるカテゴリーIとII。昨年まで採用していたカテゴリーIIを、今年からカテゴリーIに変更しよう、というもの。
 カテゴリーIIは「加害馬の走行妨害が被害馬の競走結果に影響を与えたか否か」で判断されるのに対し、カテゴリーIは「被害馬は加害馬に先着できたかどうか」という点が判断材料になります。

馬のパフォーマンスを最優先に支持

 カテゴリーIIにおける、「被害馬の走りに影響を与えたか否か」の判断の仕方は、フェアプレーの精神につながっています。加害馬の過失を罰する、というのですから。
 ただ、その姿勢は悪いことではないのですが、判断する人によって見解の相違が生じやすい。千差万別になって、審議結果に統一性、整合性が失われかねません。そうなっては混乱を招くだけで、“ルール”として体をなさなくなる。昨年まで、さまざまな審議対象レースで論争が後を絶たなかったのは、そういった背景によるものでした。

 カテゴリーIではそれらの問題、つまり判断基準の不透明さ、理不尽さが解消されました。カテゴリーIの主目的は、馬のパフォーマンスを最優先に支持する、ということだからです。
 わかりやすく言うと、騎手の不注意だか馬の癖だか、とにかく他馬の走行を妨害する行為があると、仮にその加害馬が大差で勝利を手にしても降着、あるいは失格になっていたのが昨年まで。それを「大差で勝った馬のパフォーマンスを最優先に支持しましょう」というのが今年からの考え方。
 馬券を買っているファンとしても、これはとてもわかりやすい。だって、単勝馬券を買った馬が大差で勝ったのに、スタート直後に他馬に不利を与えたからといって、その馬券が紙くずになるのは、どうにも納得できないのではないでしょうか。

 要するにカテゴリーIへの変更は、こうしたレース結果に対する考え方の見直しに他なりません。馬のパフォーマンス優先であり、それは結果を尊重することであって、勝ち馬を支持したファンを守る、ということにもなりますよ、と。
 だから、基本的には、カテゴリーIIからカテゴリーIへの変更は悪いことではない、という立ち位置にいます。

AJCC、安田記念は審議ランプも点灯せず

 とまあ、ここまでは新ルールの良い面に触れてきましたが、一方で導入以前から不安な点も少なからず指摘されていて、実際にそのいくつかは表面化してきてもいます。

 導入が発表になって、最初に問題視されたのは「失格、降着が事実上なくなるのではないか」ということ。それはまったくその通りなのですが、この件に関して気になっていることがあります。
 新ルール導入に際して、ファンへの周知、浸透を目的として各競馬場、ウインズではルール説明のアニメーション映像が繰り返し流されてます。その中で審議ランプの点灯について、「5位までに入線した馬の着順に変更する可能性がある場合に審議ランプを点灯する」とあります。

 新ルール導入から日も浅い1月20日、中山メインのAJCC。勝ったダノンバラードが直線で内に斜行し、ちょうど加速しかかったところで大きく立て直すことになったトランスワープが2着に敗れました。この時、場内の一般のファンがどよめいたほどわかりやすいアクシデントだったのに、審議ランプはつきませんでした。レース後、10分以上が過ぎてから審議ランプが点灯し、「トランスワープの萩原師と大野騎手から異議申し立てがあったため審議する」というアナウンスがありました。結果は新ルールの基準で“到達着順通り”。
 この時に感じたのは、「異議申し立てがなかったら審議ランプを点けなかったのか?」ということでした。ゴール直前の1、2着馬の事例。それも不利を受けた方が大きく立て直す格好を見て、瞬時に「着順を入れ替えるほどの不利ではない」と判断したとでも言うのだろうか、と。

 ごく最近では、6月2日の安田記念。ロードカナロアが直線で抜け出すと、大外から脚を伸ばしてきたダノンシャークに馬体を併せ、外へ外へと押しやるようにしてこれを抑え込み、ショウナンマイティの追撃を振り切って優勝しました。
 レースはスンナリと確定。ロードカナロアの力強い走りは印象的でしたが、断続的に進路を替えながら入線したことはテレビ映像でも簡単に確認できるほどで、審議ランプが点灯すらしなかったことに違和感を覚えたファンも多かったと思われます。そのうえで最終レースが終わった後に発表になった制裁を見ると、岩田騎手に10万円の過怠金……。

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著者プロフィール

中央競馬専門紙・競馬ブック編集部で内勤業務につくかたわら遊軍的に取材現場にも足を運ぶ。週刊競馬ブックを中心に、競馬ブックweb『週刊トレセン通信』、オフィシャルブログ『いろんな話もしよう』にてコラムを執筆中。

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