岡崎慎司がイラク戦で見せつけた真骨頂=定位置死守へ、アウエーで輝く勝負強さ

元川悦子

ようやく手にした悪循環を断ち切る白星

試合終了間際に値千金のゴールを決めた岡崎(左)。アウエーの厳しい環境で輝きを放った 【Getty Images】

 砂漠特有の砂嵐、気温35度超の酷暑、ボコボコのピッチ……。6月11日のドーハは、ザックジャパンが慣れ親しんだ日本の快適な環境とはかけ離れていた。過酷としか言いようがない条件に見舞われた2014年ブラジルワールドカップ(W杯)アジア最終予選ラストマッチのイラク戦。ブラジル行きに一縷(いちる)の望みをかけて猛攻を仕掛けてくる相手に、日本は想像以上の大苦戦を強いられた。

 本田圭佑ら主力数人を欠いたチームは序盤から受けに回った。今野泰幸や伊野波雅彦ら守備陣の奮闘は光ったが、攻撃陣はカウンターを繰り出すのが精いっぱいの状況が続く。アルベルト・ザッケローニ監督(ザック監督)も中村憲剛、前田遼一と持てる駒を次々と送り出し、攻撃の活性化を図ろうとしたが、どうしてもゴールをこじ開けられない。4戦未勝利という停滞感を抱えたまま、コンフェデレーションズカップ(コンフェデ杯)に挑まざるを得なくなりそうだった。

 ところが、後半36分、イラクの左FWアラー・アブドゥルが伊野波の頭を蹴って2枚目のイエローカードにより退場すると、11対10の数的優位に立ち流れが変わり始める。そして時計の針が後半45分を指そうかという時、一瞬のスキから決勝弾が生まれる。相手がつなぎ損ねたボールを拾い、ドリブルで一気に中央を駆け上がった岡崎慎司が、左サイドのスペースに全速力で走る遠藤保仁へパス。彼にマークが引き寄せられた瞬間、リターンが送られた。これをペナルティーエリア内で受けた背番号9が倒れ込みながらゴール。3月のヨルダン戦(アンマン)から続いた悪循環を断ち切る白星をようやく手に入れた。

指揮官も認める岡崎の勝ちへの執着心

「厳しい時に点を決められるのは、やっぱり『最後まで走る』という意識だと思う。走ったからこそパスが来る。諦めない気持ちかなというのはありますね」と生粋のゴールハンターは言う。でなければ、代表通算33得点、ザックジャパン発足後16ゴールという目覚ましい数字を残すことはできないだろう。
 
 しかも、2010年南アフリカW杯出場権を手にした09年6月のウズベキスタン戦(タシケント)、今回の最終予選の大きなターニングポイントとなった12年11月のオマーン戦(マスカット)での劇的決勝弾など、この男は勝負の懸かったアウエーの過酷な環境にめっぽう強い。今回のイラク戦でも時間が経過するにつれて足が止まり、ミスを連発する選手が増える中、むしろ岡崎は輝きを増した。

 彼のライバル一番手と目される清武弘嗣が早々とベンチに下がり、主力のポジションを脅かそうと意気込む細貝萌や酒井宏樹ら控え組が苦しむ傍らで、岡崎は「自分は主力組のボーダーラインに立っている」というすさまじい切迫感を持って90分間を駆け抜けた。その泥臭さと勝負強さ、タフさを控えメンバーは見習うべきである。そういうメンタリティーをつねに押し出せるからこそ、ザック監督も彼をスタメンから外そうとしないのだ。

「技術がある選手が増える中でも、監督が自分のようなタイプを置いてくれるのは、勝ちへの執着心を認めてくれているからだと思う。イラク戦でも憲剛さんが出てきた時、自分が変えられてもおかしくないと思った。それでもピッチに立たせ続けてくれた以上、監督の期待に応えるしかなかった」と岡崎は指揮官の信頼に感謝した。値千金のゴールという結果を残してくれた彼に、ザック監督も心から満足したのではないだろうか。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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