本田圭佑がより輝くために必要な条件=W杯での躍進へ、背番号4が出した宿題

元川悦子

他のメンバーに『宿題』を突きつける

本田自身にも課題はある。仮に香川(中央)や長友(右から2人目)が所属するようなビッグクラブに移籍した場合は、それなりのリスクも伴う 【Getty Images】

 彼らの要求レベルは5回連続本大会出場が決定した今、より一層高まっている。祝賀ムードが漂った翌5日の記者会見の席上で、本田の発したコメントは、明らかに異彩を放っていた。

「W杯優勝に向けて必要なもの? シンプルに言えば個だと思います。個と言うのは、昨日GKの川島選手がしっかりと1対1を止めたところをさらに磨く。今野選手が(ティム・)ケーヒルに競り勝ったところをさらに磨く。佑都と真司がサイドを突破したところ、そこの精度をさらに高める。ボランチの2人がどんな状況でも前線にパスを出せるように、そして守備ではコンパクトに保ち、ボール奪取を90分間繰り返す。岡崎選手や前田(遼一)選手が決めるところはしっかり決める。結局、最後は個の力で試合が決することがほとんどなので、どうやって自立した選手になって個を高められるか。この1年短いが、考え方によっては1年もあると考えられる」と彼は公の場で堂々と言い放ったのだ。

 本田から出された『宿題』を他のメンバーたちは真摯に受け止めていた。「このレベルアップのことは僕もつねづね感じていた。他の国の選手たちもレベルアップしている中で、日本もそれ以上に速いスピードで成長していかないと追いつけない」と吉田麻也が言えば、清武弘嗣も「圭佑君が言っていたように、レベルアップさせるところは1人ひとり違う。自分はドリブル突破した後や決定力とかをもっと高いレベルでできるようにしたい」とあらためて強調していた。

 そして盟友・長友は「僕は次のW杯で100パーセントやり切ったという気持ちで終わりたい。南アフリカW杯ではグループリーグを突破したとき、安心感や達成感が出てきたのが正直なところだった。そんなメンタルで決勝トーナメントを戦えるはずがない。自分のパフォーマンスをだし切れるはずがない。だからこそ、次は世界トップを目指すと。本当に強い信念を持ってやると。そのつもりです」と、強い決意を口にした。

 この思いは本田も全く同じだろう。直近に迫るコンフェデレーションズカップについて「テストじゃないんでね。しっかり勝ちに行くんで。そこは揺るがないです。超強気で行きます」と、本気で優勝を狙う野心を押し出したのが、その表れである。チーム全体の意識を彼らと同じところまで引き上げることが、W杯本大会での躍進の絶対条件となってくるのだ。

リスクが伴うW杯1年前の移籍

 本田自身にももちろん課題はある。「(ここから1年間の個人としての宿題は)たくさんありますね。やれることは限られているけど、自分の強みを再確認しながら、あらためてその部分にフォーカスしていくことかなと。24時間しかない1日の時間の割き方も大事になる。僕らが世界で一番強いチームになるという情熱や思いが実際の行動に出ないといけない」と本人もコメントしていた。彼はできることを冷静に分析し、1つひとつ着実に取り組んでいけるだけの人間。今夏にも実現すると見られる3度目の欧州移籍も視野に入れながら、前線でのキープ力や打開力、決定力といった武器を磨いていくことになるはずだ。希望の新天地が見つかり、そこで劇的な飛躍を遂げれば、日本代表にとっても非常に大きなプラス効果がもたらされる。

 しかしながら、W杯1年前の移籍というのはリスクが伴う。4年前にセルティックからエスパニョルへ移籍した中村俊輔もクラブでの出場機会を大幅に減らし、最終的に南アフリカ大会での出番を失った。本田に同じことが起きないとも限らない。複数のケガを抱える彼だけに、再びアクシデントに直面する危険もはらんでいる。本人は最悪のシナリオを回避する努力を欠かさないだろうが、ザックジャパンとしては予選を通して浮き彫りにされた本田不在時の戦い方を確立させておく必要がある。

 今野が分析したように、香川をトップ下に置くならそれはそれで良い面もある。その長所をより強く押し出せるような意識や戦い方の変化がチーム全体に求められる。予選の間は基本的に同じ戦術、同じメンバーを貫いてきたが、ここから先は相手によって柔軟にシステムや戦術を変えられるような臨機応変さを見につけることも肝要だ。

「マンチェスター・ユナイテッドにいると、誰も周りに合わせるとかはないし、自分にボールをよこせという個性の強い選手ばっかり。でもお互いを尊重し合っているし、仲間を生かしている。そういうところはすごく勉強になります」と香川が語るように、世界トップクラブのような高度な個の共演が実現すれば、日本代表は間違いなく強くなる。本田という絶対的存在もその中で輝きを一段と増すだろう。

 1年後の大舞台での大躍進を現実にすべく、本田圭佑もザックジャパンも足を止めることなく進化を続けていく。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント