今、下すべきではないブルガリア戦の評価=敗戦も達成された指揮官の2つの狙い

宇都宮徹壱

いろいろ試しておきたいブルガリア戦

ブルガリアに0−2で完敗を喫した日本。W杯予選のオーストラリア戦に向けて不安を残す結果となった 【写真は共同】

「日本は非常に強いチーム。コンフェデレーションズカップ(コンフェデ杯)を控えて、調子を上げてきていると思っている。われわれにとって、今回の試合は非常に重要な位置づけとなる」

 ブルガリア代表のルボスラフ・ペネフ監督は、日本代表と対戦することについて、前日会見でこのように述べている。1966年生まれの46歳。ブルガリアの英雄フリスト・ストイチコフと同い年であり、94年のワールドカップ(W杯)米国大会でベスト4に輝いた黄金世代のひとりである。ただし、米国行きを決めたアウエーのフランス戦で決定的な働きを見せたものの、その後に病を得て本大会は出場ならず。ちなみに、この伝説的なチームを率いていたのが、彼の叔父に当たるディミタル・ペネフであった。

 ブルガリアが最後のメジャー大会に出場したのはユーロ(欧州選手権)2004。これ以降、ずっと予選敗退の憂き目に遭っている。その間にディミタール・ベルバトフが代表引退を宣言し、マルティン・ペトロフやスティリアン・ペトロフも30代半ばでピークを過ぎたとして、チームは将来を見据えた世代交代の途上にある。今回のブルガリア代表が、若い国内組の選手を中心に来日したのは、そうした背景があったことは留意すべきだろう。最新のFIFAランキングでは52位(日本は30位)。ペネフ監督が日本を「非常に強いチーム」と語ったのは、決してリップサービスではなかったはずだ。

 オーストラリア代表との大一番を5日後に控えた日本にとって、今回来日したブルガリアは、決して強すぎず弱すぎず、そこそこモチベーションを保つことができるという意味では、決して悪い相手ではない。むしろ気になるのは、現時点での日本の状況である。今回の招集メンバー26名のうち、本田圭佑、岡崎慎司、酒井高徳の3名は、いずれも所属クラブがカップ戦の決勝に進出したため、この試合には合流できず。Jリーグの変則日程で前日に試合があったサンフレッチェ広島の西川周作と柏レイソルの工藤壮人(今回が初招集)もおそらく出番はない。出場の可能性があるメンバーは、実質的に21名と見てよい。

 オーストラリアとイラクとのW杯最終予選、そして来月15日から始まるコンフェデ杯。いわゆる「6月の代表月間」に向けて、ザッケローニ監督としては、唯一の親善試合となるこのブルガリア戦で、いろいろと試しておきたいことがあるだろう。その中でも特に注目されるのが、「本田不在」となった場合の代案が見いだせるか否かである。

「本田不在」のための4つの選択肢

 3月26日のヨルダンとのアウエー戦では、けがが癒えなかったために本田の招集が見送られ、結果として日本は彼の不在を埋めきれずに1−2で敗れた。そして、世界最速での本大会出場もお預けとなった。あれから3カ月、本田はCSKAモスクワの試合には出場するようになったものの、およそ完全復活という状況ではないようだ。今回の本田の招集について、ザッケローニはこう説明している。

「けがからの時間を考慮した上で、6月4日(オーストラリア戦)の前には完治すると判断した。彼のコンディションがどこにあるのかも踏まえて、最終的なメンバーを決めていかないといけない。そういった背景もあって今回、東慶悟が26名の中に入っている」

 つまりオーストラリア戦に向けて本田は招集するが、コンディション的に間に合わないケースも想定しなければならない、ということである。そのためのチョイスは現時点で4つ。

 すなわち、
(1)香川真司をトップ下に起用する
(2)中村憲剛をトップ下に起用する
(3)新たに招集された東をトップ下に起用する
(4)システムを4−2−3−1から3−4−3に変更する(=トップ下のポジションを置かない)
である。

 指揮官のプライオリティーとしては、まず(1)と(2)が優先されるのは間違いないだろう。その保険が(3)であるわけだが(前日会見でザッケローニは「トップ下には香川か中村」と明言している)、3月のカナダ戦とヨルダン戦の内容と結果を受けて(4)を試してくる可能性も十分にあり得る。実際、今回の合宿でも3−4−3を試す練習が行われたので、およそ1年半ぶりとなる3−4−3復活の可能性は、取材現場でもたびたび話題に上っていた。

 そして、この日発表されたスターティングイレブンは、まさに3−4−3で試合に臨むことが明白な陣容であった。実際にピッチに並んだフォーメーションは、以下の通り。GK川島永嗣。DFは右から吉田麻也、栗原勇蔵、今野泰幸。中盤はセンターに長谷部誠と遠藤保仁、右に内田篤人、左に駒野友一。FWは乾貴士、前田遼一、そして香川。

 ちなみにザッケローニが3−4−3を披露したのは、今回が5回目(東日本大震災のチャリティーマッチを除く)。過去4回はいずれも2011年のことで、6月1日のペルー戦、7日のチェコ戦、10月7日のベトナム戦、そして11月15日の北朝鮮戦(W杯3次予選、アウエー)。このうち、本田がプレーしたのは、3−4−3で90分間プレーしたチェコ戦のみ(この時の本田のポジションは右ウイングだった)。そう考えると、ザッケローニは2年前から3−4−3を「本田不在のオプション」として考えていたのかもしれない。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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