今、下すべきではないブルガリア戦の評価=敗戦も達成された指揮官の2つの狙い

宇都宮徹壱

3−4−3不発で後半から4−2−3−1に

勝負に負けたことに対しては悔しさをあらわしたザッケローニだが、ブルガリア戦で試したかったことは達成できた 【写真:北村大樹/アフロスポーツ】

 すでにご存じのとおり、日本はブルガリアに0−2で敗れてしまった。試合の流れについては、ポイントを絞りながら振り返ってみることにしたい。

 まず序盤4分のセットプレーによる失点について。GKの川島も、まさかあそこで相手がブレ球で直接狙ってくるとは思わなかったようだ。キッカーのDFマノレフは、プレミアリーグのフラム所属の27歳だが、それほど有名どころではない。それに、この試合でのセットプレーは、基本的に22番のMFイリエフが蹴っていた。おそらく川島は(そしてほかの選手たちも)、ブルガリアに関するスカウティングは、ほとんどできていなかったのではないか。「川島のミス」と言ってしまえばそれまでだが、あそこは仕方のない失点であったと言えなくもない。むしろ、その後は意外性のある相手のミドルシュートに対して、守護神らしく対応してくれたことを評価したい。

 3−4−3のシステムについては、決して悪くはなかった。いやむしろ、過去の4戦に比べると思いの外スムーズに機能していたように思える。両サイドはしっかりボールを収めて攻撃の起点となっていたし、前線の3人(特に香川と乾)の絶妙なコンビネーションはたびたびゴールの兆しを感じさせるものがあったし、吉田や今野の果敢な攻撃参加も悪くなかった。ただ、対するブルガリアもしっかり中盤のパスコースを消して対応。GKストヤノフも堅実な守備を見せ、なかなかゴールを割ることができない。前半は0−1で終了。

 個人的には、後半もこのまま3−4−3を続けてほしいという思いがあった。せっかく勝敗度外視できる試合なのだから、さまざまなトライをしてほしい。その中に、1点ビハインドで3−4−3をやり切る、というレッスンがあっても良いのではないか。だが、日本ベンチは一気に4人を交代。長友佑都(←駒野)、酒井宏樹(←内田)、清武弘嗣(←吉田)、ハーフナー・マイク(←前田)が入り、システムは4−2−3−1となる。そしてトップ下には香川がスライドした。その後、乾に変わって後半24分に中村が投入されると、今度は香川が左に戻り、中村がトップ下へ。パスの流動性では前者に、ゴールへの積極性では後者に、それぞれ可能性が感じられたが、チャンスは作るもののゴールは遠い。

 その間、後半25分には、ズラティンスキのFKから長谷部が痛恨のオウンゴールを献上。相手も次々と選手交代をしたためマークが曖昧になったこと、そして直近2試合でのセットプレーでの失点から「とにかくクリアしなければ」(長谷部)という気持ちが先立ってしまったことが、想定外の失点を誘発してしまったようだ。長谷部は後半35分に細貝萌と交代。そのままスコアは動かず、日本は0−2でブルガリアに屈した。ザッケローニ体制になってこれが5敗目だが、連敗したのは今回が初めてのことである。

最低限の目的は果たしたザッケローニ

 とはいえ、この結果だけで4日後のオーストラリア戦を悲観する必要はない。その理由は3つ挙げることができる。まず、招集して間もない日本代表のパフォーマンスが低調なのは、今に始まったことではないこと(とりわけ大多数を占める欧州組にとっては、シーズンが終わったばかりなのでなおさらだ)。次に、ブルガリアが予想以上にモチベーションが高く、しかも日本の研究をしっかりしていたこと(その点については、ペネフ監督も試合後の会見で明言している)。そして、今回のブルガリア戦はザッケローニ監督にとって、あくまでもテストの場であったこと。

 とりわけ3つ目の理由は重要である。後半になって4人の選手を交代した時点で、私は残り2枚の交代枠(この試合では計6枚)は中村と細貝であると確信した。ザッケローニがこの試合で何を試したいのかが、手に取るように分かったからだ。

 すなわち
(1)「本田不在」のオプションをできるだけ多く試す
(2)オーストラリア戦で出番のありそうな選手のコンディションを(それも海外組優先で)確認する
である。実際、その通りになった(しかも中村の出場は、後半が半分ほど経過した場面での投入であった)。

 試合後の会見で、ザッケローニは「負けるのは好きではない」としながらも、同時に「この試合の一番の目的は、オーストラリア戦に向けてできるだけ情報を汲(く)み取ることだった」と語っている。その意味で、当初の最低限の目的は果たすことができた。すなわち、「本田不在」のオプションを3種類(3−4−3、香川のトップ下、中村のトップ下)テストし、さらに現時点での海外組全員のコンディションも把握することもできたのだ。メンバー発表の会見で語っていた「インテンシティー(プレーの強烈さ)」を度外視してでも、指揮官はまずそれらをチェックしたかったのである。

 問題や課題は、あって当たり前。主力選手のミスが、このタイミングで集中して出たことは、むしろポジティブにとらえるべきであろう。それらがしっかりリカバーされ、W杯本大会出場を確実に決めてしまえば、このブルガリア戦はそれなりに意義のあるものであったと言える。よって、このブルガリア戦の評価は、4日後のオーストラリア戦が終わるまで保留とすることとしたい。

<了>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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