ラグビー日本代表、強豪との対戦に期待感=エディー体制2年目の成果と課題

向風見也

選手たちが感じる確かな手応え

アジア五カ国対抗は格下相手に全勝優勝したが、真価が問われるのはここから。PNC、ウェールズと続く強豪との戦いは現在の力を測る格好の機会となる 【Getty Images】

 今季のラグビー日本代表は、エディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)体制下2年目を迎えている。これから始まる強豪国との戦いに向け、さらなるバージョンアップを図る。

 ジョーンズHCは、国内外で確かな実績を積んできた。母国オーストラリアで行われた2003年ワールドカップ(W杯)で同国代表のHCを務め、準優勝。続く07年のフランスW杯では、南アフリカ代表のチームアドバイザーとして優勝に貢献する。日本では、サントリーサンゴリアスの監督として、10−11シーズンからの2年間で3つのタイトルを獲得した。
 そんな指揮官は、就任以来こう話している。

「15年のW杯(イングランド)で世界のトップ10を目指します。そのためには、世界一のフィットネスとアタッキングを身につけなければいけない」

 勝負を制するには誰にも負けない長所が必要で、日本にとって長所となり得るのは、尽きぬスタミナと繊細な技術の合わせ技だ。ジョーンズHCはそう考える。

 互いに声を掛け合いながら攻めの陣形(シェイプ)を作り、複数のランナーがパスを呼び込む。相手の守備網に亀裂を入れ、再び陣形を整える……。そうした攻めを繰り返せるよう、合宿では1日3度の練習を習慣化した。スクラムを最前列で組むため身体の横幅が必要なプロップの選手にも、体脂肪率の大幅ダウンを求めた。「お菓子、好きだろ。やめろ」。スクラムワークに定評ある浅原拓真(東芝)は、招集されるやこう言われたようだ。

 取り組みの成果は、昨秋の遠征時にさっそく表れた。ジャパンはルーマニア代表戦、グルジア代表戦とのテストマッチ(国同士の真剣勝負)で2連勝。史上初めて、欧州の国代表を敵地で下したのだ。その流れは今季も受け継がれている。「1からの始まりではないので、スムーズに動いている」。前年度に続きセンターを務める立川理道(クボタ)は、チームの戦術理解度の高まりに手応えを感じていた。

 春のキャンプ中には、こんな場面があった。スクラムハーフの日和佐篤(サントリー)が、コーチに代わって練習の意図を仲間に説明していたのだ。
 サントリー所属の日和佐は新人時代からジョーンズHCのラグビーに触れており、26歳にしてテストマッチ出場数は21をマーク。若手の多い現代表にあっては経験豊富と言えた。そのため無意識のうちに、周りを引っ張る存在となっていたのだ。そういえば、指揮官はこんな話をしたことがあった。

「フレームワークは我々(コーチ陣)が用意できます。しかし、選手間のコミュニケーションも必要です。オフ・ザ・フィールドでもハードワークしなければならない」

 首脳陣の打ち出す綿密な枠組みを選手が自主的に運用する。そんな気風も、今のジャパンの大きな特徴だろう。

肉弾戦でのプレー精度に課題

 5月下旬からは環太平洋諸国とのパシフィック・ネーションズカップ(PNC)が開幕。大会期間中の6月8、15日には、今季の欧州6カ国対抗を制したウェールズ代表とのテストマッチが組まれている。

 ビッグゲームに向けて着実に成長するジャパンだが、課題も抱えている。その最たるものは、肉弾戦でのプレーの精度だ。
 大きくて力強い相手に跳ね返されないよう、ジャパンは攻守で姿勢の低い当たりを目指している。昨夏から、「世界のTK」の愛称で知られる元総合格闘家・高阪剛氏をスポットコーチに招へい。接点に近づくと同時に相手の懐へと飛び込めるよう、格闘技的なセッションを重ねている。「ダウンスピード」「TKスピード」が合言葉である。

 しかし、それらの完全定着までには「時間がかかる」とジョーンズHCは言う。
 というのも指揮官は、もともと重心の低いプレーが得意な選手を代表から外している。前年のPNCで、接点でのパワー不足を感じたためだ。

 現在のFWの第3列(肉弾戦の主役となるポジション)は大型選手ぞろいで、ジョーンズHCいわく「国内では高い姿勢でも通用している選手」が大半を占める。4月からのアジア五カ国対抗は格下相手に全勝も、しばしボール保持者の姿勢が高くなりタックラーの餌食となった。「僕も何回も高くなった」。ナンバーエイト菊谷崇副将(トヨタ自動車)も反省する。

 初夏の戦いを控えるジョーンズHCは、これからやるべきことに「自分たちのアタックをやりきること」「相手の攻撃を2フェーズで終わらせること」を掲げる。フィジカル面での課題をクリアし、相手を自分たちの土俵へ引き込みたいという意識の表れだろう。「ダウンスピード」の質が、それらの成否を左右しそうだ。

 もっとも、身長192センチにして低い前傾姿勢を貫けるロック大野均(東芝)ら、精神的支柱の充実は確かだ。6月からはスクラムハーフ田中史朗(パナソニック/ハイランダーズでプレー)、フッカー堀江翔太(パナソニック/レベルズでプレー)、フランカーのマイケル・リーチ(東芝/チーフスでプレー)と、南半球最高峰のスーパーラグビーに挑戦する面子も合流予定である。

 シェイプからの攻撃という確かなソフトを、個性あるメンバーがどう運用するか。そんな期待感があるのもまた事実だ。まずは5月25日、神奈川はニッパツ三ツ沢球技場でのトンガ代表戦に注目が集まる。

<了>
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著者プロフィール

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとなり、主にラグビーに関するリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「スポルティーバ」「スポーツナビ」「ラグビーリパブリック」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。

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