イチローを襲うレギュラー落ちの危機

杉浦大介

スラッガーの戦線復帰、外野に余剰戦力

 もちろん長いシーズンはまだまだこれからだけに、現時点で評価を下すのは早すぎるのだろう。しかし、好スタートゆえに優勝争いへの期待が改めて膨らみつつあるヤンキースの中にあって、悠長なことも言っていられない。
 特にイチローが再び絶不調期間に突入したそのタイミングで、14日には負傷離脱していたカーティス・グランダーソンが戦線復帰。過去3年で108本塁打を放ったスラッガーの帰還で、ウェルズ、ガードナー、イチローと合わせ、外野手が4人になってしまったことになる。

「状況を見ながら誰かに休日を与えることがマイナスだとは思わない。グランダーソンをいきなり7、8日も連続でプレーさせるべきではないし、結論を言えば、今後もみんな(4人とも)がたくさんプレーすることになるよ」
 ジラルディ監督がそう述べている通り、人材難が一転、余剰戦力が生まれる状態になったことは、高齢選手の多いチームには大きいに違いない。
 14、15日にしても、DHでパワーを発揮して来たハフナーが右肩を痛めたため、ウェルズがDHとして出場した。このような小さなケガは今後も起こり得るだけに、層が厚くなるに越したことはないのだろう。

 もっとも、その一方で、長くメジャーのスターとして君臨して来たイチローにとって、“レギュラー”の立場が脅かされていくとしたら、やはり心中穏やかではないはずだ。ライトが本職の選手はイチローだけで、外野のすべてのポジションをこなせる点でアドバンテージはある。それでもここまでの打撃成績ではガードナー、ハフナー、ウェルズに劣っているだけに、不調がこのまま長引けば風あたりは強くなる。

“屈辱の3条件”に近い位置にいるのかもしれない

 思えば昨年7月、マリナーズからヤンキースにトレードされるに当たり、起用法に関してイチローに3つの条件が提示されたことが話題になった。「レフト転向」「打順は下位」「左投手時は休養も」といった考えようによっては屈辱的にも思えた3条件は、9月以降の大活躍によってすぐに反古にされた。しかし、時は流れ、今のイチローは再びその当時に近い位置にいるのかもしれない。
 去年の移籍前のように打率2割6分程度に止まるなら、守備、走塁での確実な貢献が望まれるロールプレーヤーとしての起用が多くなる。一方で、昨季終盤のように全盛期を彷彿とさせる勢いで打ち、走り始めれば、周囲はすぐに手のひらを返し、上位打線固定の主力級の扱いになる。

 答えはシンプルに、“自分次第”。常にせっかちに結果を欲しがるニューヨークでは、いつでも“It’s up to you”。

 4月下旬の好調期を思い起こせば、力が残っていないとは思わない。これから先、どれだけのペースで打ち続け、紆余曲折の多そうなチームをどんな形で助けて行けるか。ヤンキースにとっても、イチローにとっても、実に先の読み辛い2013年シーズンはまだ始まったばかりである。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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