工藤公康に聞く、藤浪・雄星ら好調の要因

大利実

工藤氏は藤浪の腕が遅れて出てくるフォームについて「バッターはタイミングがとりづらい」と分析する 【写真は共同】

 いよいよ交流戦がスタート。セ・リーグは予想通り巨人が首位に立つも、阪神が猛追する展開。一方、パ・リーグは、下馬評を覆し、千葉ロッテが粘り強い野球で首位を走っている。また菅野、大谷、藤浪といった期待のルーキーもすでにチームの戦力として活躍している。

 現役時代通算224勝をあげ、現在はプロ野球解説者として活躍する工藤公康氏に、現在好調のピッチャーが活躍できている要因について、話を聞いた。(インタビュー日 5月13日)

※文中の数字は、交流戦開幕時

新人投手が好結果、理由は心理状態

224勝左腕・工藤氏が見た藤浪、雄星ら好調の要因とは? 【スポーツナビ】

――プロ野球が開幕してから1カ月半。セ・リーグは菅野智之投手(5勝1敗、防御率2.83)、藤浪晋太郎投手(3勝1敗、防御率2.12)に代表されるように新人投手の活躍が目立っています。工藤さんの目にはどのように映っていますか?

 まず、この時期の新人投手の心理状態を知っておくと良いでしょう。新人はまだ「先」を見る余裕がなく、自分が投げる試合に向かって一生懸命に調整しています。試合においても、1球、1打者、1イニングという考えで投げることができる。これが良い結果につながっているように感じます。

――良い意味での「無心」「無欲」が好成績につながっていると。

 エースやベテランになってくると、前日の試合までに中継ぎ投手が登板過多になっていれば、「俺が完投して、中継ぎを休ませなければいけない」、チームが連敗していれば、「俺が(連敗を)止めなければいけない」など、調整の段階でいろいろ考えてしまうものなのです。

――対戦相手からすると「データが少ない」ということも、新人投手には有利に働いていますか?

 それもあるでしょう。もっと言えば、ボールの角度や球筋です。一口に「スライダー」といっても、100人ピッチャーがいれば100通りのスライダーがあり、曲がる幅が違えば、曲がる場所も違う。
 バッターは、対戦する投手の球種や球筋を頭に入れて、その球筋に合わせてスイングをします。逆に言えば、頭に入っていない軌道のボールがくると対応しづらいわけです。このあたりは数字だけのデータでは見えてきません。数多く打席に立ち、ボールを自分の目で見ることによってわかってくることです。

菅野はアウトローのコントロールが良い

――ひとりのピッチャーとして、それぞれの特徴を教えてください。菅野投手については、前回のお話しで「コントロールの良さ」を挙げていましたが、ここが生命線でしょうか?

 そう感じます。ストレートだけでなく、スライダーを中心にしたコントロールが良い。ピッチャーの生命線であるアウトローにきっちりと投げられるコントロールを持っています。また、余計なフォアボールを与えていないことも、勝てるピッチャーの条件と言えます。

――「アウトローが生命線」とはよく耳にする言葉ですが、その真意はどこにあるのでしょうか?

 バッターにとって、自分の目から一番遠いボールです。想像できると思いますが、日常動作でも何にしろ、目の近くで動作をした方が確実に行えますよね。バッティングも同じ。目から遠いところは、ミートしづらい。そのため、初球からわざわざ狙って打つケースは少ない。つまり、アウトローに投げられれば、ピッチャー有利のカウントで進めていくことができるのです。

藤浪は動く球が「個性」、武器になる

――なるほど、分かりやすいですね。対して、藤浪投手はいかがでしょうか?

 こちらも前回お話ししたとおり、動くストレートが武器になっています。バッターとしては、あの動く球が気になってしまう。そこに頭があるため、スライダーやカーブをとらえ切れていません。
 プロで先発として活躍できるピッチャ―は、私の経験上、最低4つ以上の球種と、独特な軌道を描く「個性」あるボールを持っていることが必要だと思っています。
 昨年高卒ルーキーで8勝をマークした武田翔太投手は、鋭く速く落ちる独特のカーブがありました。この軌道にバッターが対応できなかった。もともとストレートも球威がありますから、よりカーブは生きてきますよね。
 藤浪選手にも、自分の「個性」あるボールを磨いて、武器にしてもらいたいです。

――バッター心理として、動く球が気になるという点をもう少し詳しく教えてもらえますか?

 ふたつの要素があります。まず、動く球は打ちづらいので、それを頭に入れて打席にのぞみます。もうひとつは、高卒の新人投手ということ。プロのバッター心理からすると、「ストレートを打ってやろう」「ストレートでは抑えられたくない」と思うものなんです。

――プロの先輩としての「プライド」があるわけですね。

 あとは藤浪投手の場合はフォームですね。腕が遅れて出てくるために、バッターはタイミングがとりづらい。対戦を重ねていかなければ、なかなかタイミングが合ってこないのでしょう。

――14日から交流戦に入りました。「初」の対戦が続くことで、データが少ない新人投手には有利な状況になるでしょうか?

 難しいのは、ピッチャーの調子の良さは1カ月〜1カ月半ぐらいしか続かないということです。1年間ずっと良いなんてことはあり得ません。どこかで体か頭が疲れてくる。状態が悪いときに、「悪いなりのピッチング」ができるかに注目してみるといいでしょう。つまり、「低めやコースを丁寧に突こう」という意識、集中力を持ちつづけられるかでしょう。

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著者プロフィール

1977年生まれ、横浜市出身。大学卒業後、スポーツライター事務所を経て独立。中学軟式野球、高校野球を中心に取材・執筆。著書に『高校野球界の監督がここまで明かす! 走塁技術の極意』『中学野球部の教科書』(カンゼン)、構成本に『仙台育英 日本一からの招待』(須江航著/カンゼン)などがある。現在ベースボール専門メディアFull-Count(https://full-count.jp/)で、神奈川の高校野球にまつわるコラムを随時執筆中。

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