木村沙織が下した主将就任という決断=全日本女子がバレー世界一に輝くために

田中夕子

「バレーを辞めよう」と引退を決意

ついに始動した全日本女子。44人の大所帯をまとめる木村沙織(前列中央)は、何を思い主将就任を決断したのか 【写真:アフロスポーツ】

 リオデジャネイロ五輪に向けて、全日本女子バレーボールチームが始動した。
 ロンドン五輪では悲願であったメダルを獲得し、4年後の目標はただ1つ。真鍋政義監督は「世界一を目指す」と明言した。

 2013年度の登録メンバーが44名と大所帯のチームで、キャプテンに任命されたのが、木村沙織だ。
「自分が一番ビックリしました。絶対無理、無理です、私にやらせたら大変なことになります。と何度も断りました」
 
 真鍋が木村にキャプテンを打診したのは、今年の1月。
 ヨーロッパチャンピオンズリーグの解説でトルコを訪れた際、トルコリーグのワクフバンクでプレーする木村と再会した。

 実はその時、木村は引退を決意していた。

「東レ(アローズ)でもタイトルが取れたし、五輪でメダルも取れた。あと、やり残したことと言えば海外でプレーすることぐらいだったけど、それも今回達成できた。もういいや、もう十分だなと思って。今年1年、全日本で活動したら、もうバレーを辞めようと決めていました」

木村のキャプテン就任にこだわった真鍋

 トルコリーグでプレーする選手の話、そして海外での経験。真鍋との会話に華が咲く中、突然、木村が切り出した。

「真鍋さん、私、バレーを辞めるので、11月のグラチャン(ワールドグランドチャンピオンズカップ)を私の引退試合にして下さい」

 目を丸くして、真鍋が驚く。でもその後で発したひと言に、今度は木村が目を丸くした。
「次のチームのキャプテンをお前に任せようと思ってるのに、辞めるって何や。ありえんやろ」

 キャプテン? 私が? 理由も聞かず「無理無理」と断った。自分の代わりに「この人もいるし、あの人のほうが向いている」と何人も名前を出して、真鍋を納得させようとした。

 それでも、指揮官は引かなかった。

「お前しか、おらんやろう」

 懸命に説得したが、簡単には首を縦に振らない。自分が決めたことを頑なに貫くのが、木村の性格であることを、真鍋も熟知している。それでも譲らない理由があった。

「日本の主将は誰でもできるわけではありません。竹下(佳江/元JTマーヴェラス)、荒木(絵里香/東レ)の後を継承できるのは、五輪を3回、世界選手権を3回経験している木村しかいません」

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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