パク・チソンが過ごした屈辱の日々=キャリア晩年の悲劇から再起果たせるか

鈴木英寿

経営者にあるまじき発言を繰り返す会長

プライドを引き裂かれたパク・チソン(左)。屈辱から這い上がり、再び輝くことはできるのか 【Getty Images】

 QPRの降格決定後、フェルナンデス会長はとんでもない発言を繰り返している。「わたしが選手だったら、毎週150パーセントの力でプレーしている」というのはまだかわいいほうで、“御法度”であるはずの現場介入をほのめかすコメントを連発。揚げ句の果てに「スカッド(編注:所属選手を指し示す)のうち6割の選手の人件費は、減額だ。監督給料だって例外ではない」ともほえている。

 身銭を削って補強に力を入れたフェルナンデスからすれば、おそらく「自分が大金を払ってきたんだから、文句を言う権利くらいはある」ということなのだろう。もちろん、プロは結果の世界であり、選手・スタッフはピッチ上で起きたことの責任を背負わなければならない。

 だが、洋の東西、リーグカテゴリー、スポーツ競技の種類を問わず、プロ契約を尊重しない経営者にプロビジネスへの参加資格はないとわたしは思う。いかなる天変地異が起きようとも、プロ選手・プロ監督の契約を尊重しない経営者に、未来はない。今QPRが着手すべきことは、降格の現実をシビアに受け止めた上でその原因を検証し、来季に向けた予算を確保することである。その上で、現場とフロントが同じビジョンで戦わなければ、さらなる悲劇が起きたとしても不思議ではない。

近づく引退の足音

 QPRは来季、チャンピオンシップという鉄火場で、プレミア昇格争いを戦わなければならない。仮にパク・チソンが来季限りで現役引退を決意するのであれば、彼の現役最後の舞台はイングランドの2部リーグになる。

 世界最高のクラブを離れ、大型補強を敢行した野心的なクラブに身を投じた2012−13シーズン。パクはキャリア最悪の時を過ごしてきた。勝利から見放され、監督は解任され、新監督からは信頼を失い、揚げ句の果てに降格……その上、エキセントリックなマレーシア人オーナーからは公の場で(名指しではないものの、多くのスター選手たちとともに)罵倒(ばとう)され続けている。

 果たして、パク・チソンはこの屈辱からいかにして這(は)い上がるのだろうか。

 彼は来年2月に33歳となるが、来季でQPRとの契約が切れる。来る13−14シーズンが、現役最後のシーズンになる可能性が高いが、「今季限りで引退しても不思議ではない」との声も、現地関係者からは聞こえてくる。

<了>

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著者プロフィール

1975年生まれ。仙台市出身。仙台一高、東京理科大学卒。『週刊サッカーダイジェスト』編集記者を経て、2005年に退社。2006年からFIFA.com日本語版編集長を務め、FIFAドイツ・ワールドカップ、FIFAクラブワールドカップの運営に携わる。2009年、ベガルタ仙台のマーケティングディレクターに就任。2010年末より当時経営難に陥っていた福島ユナイテッドFCのアドバイザーを務め、2011年2月から2012年7月までは同クラブ運営本部長として、経営難と東日本大震災という二度の難局を乗り切った。2012年8月よりFIFA.comに復帰し、9月より渡英。現在はプレミアリーグ、チャンピオンズリーグなどの現場を取材しながら『Number』や『ワールドサッカーダイジェスト』などに記事や翻訳を定期的に寄稿中。訳書に『プレミアリーグの戦術と戦略』(ベスト新書)。

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