42歳を過ぎても衰えぬNBAへの情熱=挑戦者・阿部理、壮絶なプレー人生を語る

スポーツナビ

「内側の声に従えば、常識なんて関係ない」

阿部は42歳になってもNBA挑戦を続ける理由を笑顔で語ってくれた 【スポーツナビ】

 42歳でNBAに挑戦する日本人がいる――。

 この言葉だけを聞くと大多数の人は、無理だと鼻で笑い、夢物語のように思うかもしれない。しかし、その挑戦者“阿部理”は「そうだろうね。普通に考えたら40歳を過ぎてNBAという世界の天才が集まる世界最高峰のリーグに挑戦することは、とてもハードなチャレンジだと思います」と笑って答えた。

 2メートルを超す長身と抜群のシュートセンスを武器にフォワードとして活躍した阿部。1993年に慶応義塾大学を卒業後、日本鋼管に入社しNKKシーホークスでプロキャリアをスタートさせ、デンソーフープギャング、新潟アルビレックス、トヨタ自動車アルバルクと国内のチームを渡り歩いた。その受賞歴も様々で93−94シーズンには日本リーグ新人王に輝き、94−95シーズンに年間ベスト5、98−99シーズンにはスリーポイント王を受賞。また、91年から98年までの8年間はナショナルチームにも所属し、FIBAアジアバスケットボール選手権大会などにも出場している。そんな華やかな経歴を持つ阿部のNBA挑戦は実に3度にも及ぶ。1度目は2004年の夏、2度目は07年の夏、そして3度目は12年の夏だ。3度目の挑戦を終えたのは13年の3月。帰国後の今も阿部はNBAへ挑戦するための方法を模索中だ。

 年齢だけを見ると、競技問わずアスリートとして下り坂にさしかかっていると思われても仕方がない。その状況について阿部は、「僕の内側の声が『行け、やめるな』というんです。常識なんて関係ない」と実にアスリートらしい答えだった。そして、具体的に「個人的には実年齢と肉体年齢は違うと思っています。それに、30代のころと比べてもエネルギーやコンディションは今の方が良い。20代のころは若さと勢いがあったが、今はそれがだんだんと熟成されてきて良い感じでエネルギーが充実している。それに、目標に向かうためのエネルギーを、どうチャージするのが良いのかという力も昔に比べてついている」とも説明してくれた。

初挑戦で味わった挫折

 初めてNBAに挑戦したのは04年の夏。当時34歳の阿部はナイキアスリートとして日本でプレーしており、その時の知り合いが米国のサンディエゴに仕事で渡米していたのがきっかけだった。その知り合いがエージェントを引き受け、ABA(アメリカン・バスケットボール・アソシエーション)のトライアウトが受けることができた。だが、その時の阿部は大きな不安を抱えていた。膝の状態が悪く、けがと隣り合わせになり、押したらやばいと言うのは分かっている……。しかし、「NBAでプレーしたい」という気持ちは抑えられなかった。

 結果、9月に渡米しトライアウトを受けたが、途中で膝が腫れあがりプレーできる状態ではなくなった。長年酷使した膝の関節は摩耗し、プレーしては腫れ、腫れが引いてプレーしては腫れを繰り返す。そして、同年の12月に米国で膝の手術を決意。これが、地獄の日々にも近いつらい時期の始まりだった。術後も、医者やフットセラピー、鍼灸治療、薬草療法など思いつくどんな治療法を試しても改善の兆候は見られない。日本、米国問わず行く先々で告げられるのは「もういいんじゃないか?」。俗に言う引退勧告だった。

 さらに、失意のどん底にたたき落とすような2つの出来事が阿部を襲う。1つは膝のけがに続き、脳腫瘍が見つかったのだ。膝のリハビリと同時に闘病生活が始まり30代にして選手生命だけでなく、命の危機にも遭遇した。もうひとつはリハビリ、闘病生活を続ける中、日本人初のNBAプレーヤーが現われた。“田臥勇太”だった。テレビの向こうで日本人が世界最高峰の舞台でプレーしている。その時の心境を阿部はこう語る。

「まあ……単純にうらやましかった。日本人最初のNBAプレーヤーは俺のはずだったのにって感じで(笑)。後輩の偉業を喜びたいけれど、悔しい思いもどこかにあって、心から祝福したいけどできない。そんなジレンマがありました」

 そんな心が折れてしまっても不思議ではない状況の中、阿部を支えたのは、「TM瞑想」という何気ない普段の習慣だった。97年から心のトレーニングの1つの技術として取り組んでいるこの習慣が心の平安を保つのに役立っていた。しかし、それでもつらいことに変わりなく、一度日本に引き揚げようと思ったのが、06年の9月。帰国後は「気持ちがあっても身体が付いてこないのであれば、これが引退すると言うことなのか……」と悶々と3カ月ほどを過ごしていた。

1/3ページ

著者プロフィール

スポーツナビ編集部による執筆・編集・構成の記事。コラムやインタビューなどの深い読み物や、“今知りたい”スポーツの最新情報をお届けします。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント