バイエルンが予感させる黄金時代の到来=バルサテイストの融合がもたらす変化とは

中野吉之伴

バルセロナに大勝し、3冠達成も現実味を帯びてきた

CL準決勝でバルセロナに大勝し、強さを証明したバイエルン。しかし、彼らが求めるのは今季限りの強さではない 【Bongarts/Getty Images】

 24日に行われたチャンピオンズリーグ(CL)準決勝の第1戦、ホームにバルセロナを迎えたバイエルン・ミュンヘンは、トーマス・ミュラーの2ゴールなどで4−0と圧勝した。敵地での第2戦を残しているとはいえ、4点というアドバンテージは大きく、決勝進出に大きく前進したのは間違いない。

 試合が動いたのは前半25分。バルセロナのゴール前で、フィジカルの強さと高さを生かした攻撃からトーマス・ミュラーが先制点を挙げる。その後も、セットプレーやサイドでプレーするフランク・リベリー、アリエン・ロッベンの個人技を生かした突破からバルセロナ守備陣を切り崩し、マリオ・ゴメス、ロッベン、ミュラーが追加点を決めた。リオネル・メッシが負傷明けで本調子でなかったとしても、ここ何年もの間、世界のトップに君臨し続けたバルセロナ相手に大差をつけて勝利した事実は、バイエルンの強さを証明するものだった。

 バイエルンは今季のブンデスリーガもすさまじい勢いで独走し、史上最速となる第28節でのリーグ優勝を決めた。第30節終了時ですでに昨シーズン優勝したボルシア・ドルトムントが打ち立てた勝ち点81を挙げ、そのほかにもシーズン26勝のリーグ記録を樹立している。4月16日に行われたドイツカップ準決勝でも、日本代表MF長谷部誠の所属するボルフスブルクを相手に6−1で圧勝。危なげなく決勝進出を決めている。

 昨シーズンはCL、国内リーグ、国内カップ戦とすべて2位に甘んじたバイエルン。今季はドイツのチームとしては史上初となる3冠達成もいよいよ現実味を帯びてきた。

 しかしバイエルンが求めているものは1シーズン限りの「スーパーシーズン」(ウリ・ヘーネス)ではない。さらに磨きをかけ、バルセロナのように何シーズンにも渡り、トップレベルのクオリティーを保ち続けることだ。それこそが、来季からバイエルン監督に就任するジョゼップ・グアルディオラに託されるミッションである。

さらなるレベルアップをするために

 現在のバイエルンもヨーロッパ随一の実力を兼ね備えているが、そんなバイエルンをさらにレベルアップをさせるためにはどうすればいいのだろうか。既存のバイエルンサッカーをベースにバリエーションを加えていくのか。あるいはグアルディオラのやり方に“ハマる”選手を集めて新しいチームを作るのか。例えばオランダ代表のFWロッベンは世界有数のドリブラーだが、グアルディオラがバルセロナ時代に取り組んでいたサッカーだと居場所はないだろう。

 もちろんグアルディオラがロッベンのような選手をも生かす新しいサッカーを提唱してくれるのを本心では望みたい。しかし、バイエルンはすでに、グアルディオラが獲得を熱望していたドイツ代表MFマリオ・ゲッツェを、ドルトムントから3700万ユーロ(約47億円)の移籍金で獲得することが内定している。ここはグアルディオラがバルセロナで見せてくれていたサッカーをベースにバイエルンでも指揮をとると仮定して話を進めていきたい。

「バルセロナの強さの秘密は攻撃的な守備」

 バルセロナ流サッカーを体現するために必要な要素は何だろうか。グアルディオラ時代のバルセロナサッカーで他チームを圧倒していたのは、ボールを奪われた瞬間に圧倒的なスピードとタイミングで繰り出されていたフォアチェッキングのクオリティーの高さだ。ドルトムントのユルゲン・クロップ監督も「バルセロナの強さの秘密はあの攻撃的な守備にある」と当時語っていた。

 このバルセロナ流フォアチェッキングのポイントとなるのが、選手間の距離だろう。彼らによるポゼッションサッカーでは、この距離感とスペースの使い方が重要になる。「ボールロスト直後に仕掛けるプレッシング」は、今のバイエルンに一番欠けているものだと思われる。本来ボールを失った直後というのはバランスを失った状態にあたる。その瞬間を、自分たちがボールを保持している段階から想定し、コントロールできるかどうかが鍵になる。次のバランスを見ながら、バランスよく積極的に相手にプレスを掛けることが求められるのだ。今のバイエルンはバランスが悪い状態で、バランス悪くプレスを仕掛けることが多い。中途半端なプレスは相手にかわされる危険を併せ持つため、ユップ・ハインケス監督はそれよりも素早く自陣に戻り陣形と秩序を取り戻すことを優先させた。グアルディオラはまずここに着手するはずだ。

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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