香川真司、達成感なきプレミア王者の座=歓喜の後に紙面で高まる今後への期待

寺沢薫

控えめながらも歓喜の表情は確かに

カメラマンに促され、エブラ(左)、ギグス(右)との3ショットに収まる香川(中央)は、日本人初のプレミア優勝を果たし歓喜の表情を浮かべた 【Man Utd via Getty Images】

 勝てばクラブ史上20回目のプレミアリーグ優勝が決まる一戦で、背番号20が魅せた。ロビン・ファン・ペルシーがハットトリックを達成し、マンチェスター・ユナイテッドが1年でリーグの覇権を同じ街を本拠とする青いチーム(マンチェスター・シティ)から取り戻した。前半33分、3点目のゴールシーンでは、トップ下で先発した香川真司が華麗なターンからライアン・ギグスにスルーパスを通し、そこからのラストパスをエースが決めた。この時点でオールド・トラフォードに詰めかけた7万5000人は「チャンピオーネ! チャンピオーネ!」と歌声を上げ始め、結果的にそこから立ち止まることなく、優勝まで突っ走った。

 ナイトゲームだったことやリーグ側の準備の都合で、トロフィーやメダルの授与などは後日に持ち越されたが、試合後に選手たちはスタジアムを2周し、ファンと喜びを分かち合った。もちろん、フル出場した香川も、日本人初のプレミア王者として、その輪にいた。彼らしく、少し控えめな様子ではあったものの、確かに歓喜の表情がそこにはあった。チームメートやスタッフが次々と香川に声を掛け、ハグを交わす。ダビド・デ・ヘアやダニー・ウェルベック、マイケル・キャリックにナニ、ラファエル。さまざまな選手と談笑しながらピッチを練り歩く。控え室に戻る直前には、試合中も頻繁に動きを確認し合っていたギグス、キャプテンのパトリス・エブラと、カメラマンに促されて3ショットに収まるシーンもあった。香川はまぎれもなく、イングランド最強チームの一員だった。

現地紙「来季はもっと期待できる」

 ドルトムントでのドイツ・ブンデスリーガ連覇を含め、香川はヨーロッパに活躍の場を移してから3年連続でリーグ優勝を経験している。しかし、ユナイテッド加入1年目の今シーズンは、欧州移籍後、最も苦しみ、試行錯誤したシーズンだった。まずは、ユナイテッドの今季と香川の1年目を数字で振り返ってみたい。

 アレックス・ファーガソン監督のさい配から見える最大の特徴は、徹底したローテーションだった。プレミア創設後、クラブ史上最多となる19人のスコアラーが生まれたことがそれを物語っている。また、今節までの34試合で、30試合以上に出場した選手はファン・ペルシー、キャリック、エブラの3選手だけ。次いで、20〜26試合に出場しているのがウェルベックやウェイン・ルーニー、クレバリーなど8選手。さらに10〜19試合出場が10選手で、18試合出場5得点の香川もここに含まれる。香川はその18試合中、先発は15試合で、うち11試合が途中交代。総出場時間1,190分はチームで14番目。もちろん、ケガで約2カ月離脱していたこと、カップ戦での戦いが並行して行われたことは加味しなければいけないが、以上から香川の立ち位置を考えると、「準レギュラー」という言葉が一番しっくりくる。

 では、「準レギュラー」の香川に対し、現地メディアはどのような評価をつけたのか。優勝を受け、『ザ・サン』と『デイリーミラー』の両紙が全選手のシーズンレーティングを発表しているが、香川に対する評価は以下の通りだ。

「われわれはドルトムントでのような活躍を待ちわびたが、それは時々しか見られなかった。ホームでのノーウィッチ・シティ戦(第28節)でのハットトリック。そして、アウエーで迎えたウェストハム戦(第29節)でのパフォーマンスがハイライトだった。だが、来季はもっと期待できる」(ザ・サン、6点/10点満点)

「輝かしいスタートを切ったが、ケガで11月と12月を棒に振った。復帰後はノーウィッチ・シティ戦(第28節)のハットトリック、2−2で引き分けたウェストハム戦(第29節)で2点に絡み、彼がどれほど効果的な選手かを示した。来季はより大きな仕事が期待できる」(デイリー・ミラー、7点/10点満点)

 また、『ガーディアン』紙は「香川にとっては大変なデビューシーズンだったかもしれないが、それがプラスになるはず」と、前二紙と同じく来季への期待をつづった。さらに『テレグラフ』紙のヘンリー・ウィンター記者も優勝について書いた記事の中で、「今季新加入したこの日本代表MFは、必要とされる水準をすぐに理解し、チームに貢献した。素晴らしい出来だったフラム戦(第2節)、ウェストハム戦(第29節)のように、この試合(アストンビラ戦)でもファン・ペルシーの3点目につながるギグスへのパスでチャンスを作り出した」と好意的な見方を示している。

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著者プロフィール

1984年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』編集部を経て、株式会社フットメディア(http://www.footmedia.jp/)在籍時にはプレミアリーグなど海外サッカー中継を中心としたテレビ番組制作に携わりながら、ライター、編集者、翻訳者として活動。ライターとしては『Number』『フットボリスタ』『ワールドサッカーキング』などに寄稿する

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