F1チームを強くする非情人事=赤井邦彦の「エフワン見聞録」第4回

赤井邦彦/AUTOSPORTweb

ホンダF1の失敗

今年からメルセデスのエグゼクティブディレクターに就いたヴォルフ氏 【LAT】

 F1チームの人事ほど非情なものはないと思う。「日本の会社だってそうじゃないですか? “追い出し部屋”っていうものまであるらしいし」と言われると困るのだが、F1チームの人事はそんなに甘いもんじゃない。ジワジワと来るのではなく、ある日突然に肩をたたかれてサヨナラを告げられるのだ。

 マレーシアGPの際、メルセデスF1チームの新しいエグゼクティブディレクター、トト・ウォルフに話を聞いた。ここでは詳細に触れないが、インタビューでは非情なF1界の人事面に触れる話も出た。

 メルセデスF1チームの前身はブラウンGP、そのまた前身はホンダF1チームである。ホンダ時代、このチームは、150戦以上戦ってわずか1勝しか挙げられなかった。このふがいない成績は、あえてここで言及するならマネージメントの失敗だろう。つまり、F1の常識である非情な人事ができなかったのだ。

 ホンダ時代に長い間チームの指揮を執ったのは田中詔一氏。ホンダきっての名うてのビジネスマンだ。ただ、彼のビジネススキルはF1界では通用しなかったのだろう。それは人事面において非情になりきれない日本人の甘さだったのかもしれない。今はフォースインディアで役職に就くオットマー・サフナウアーを片腕にチーム運営をしたが、当時のサフナウアーはF1界では通用しなかった。一般的なビジネスの世界では通用したサフナウアーの力も、F1界では素人同然だった。もうひとり、ホンダF1チームの中枢にはニック・フライという人物もいたが、彼に関しては後で触れる。

ロス・ブラウンが育てたF1チーム

 そのメルセデスF1チームが先週末の中国GPで今季初めてポールポジションを獲得、3位表彰台も得た。ルイス・ハミルトンが頑張った結果だが、ホンダ時代と比べるとチームの幹が太くなっているように感じる。暴風雨に耐える強さを持った太さの幹だ。これは、ホンダからチームを買い取ったロス・ブラウンが時間をかけて基盤作りをした結果。そして今年、メルセデスF1チームは代表が交代した。

 改めて引き合いに出すことはなかろうが、大方のF1チームを運営する人物には非情な力が備わっている。そして非情の最たるものが、チーム代表であろうが取締役であろうが簡単にクビが飛ぶという事実。そう、チームのいちばん偉い人がクビになるのだ。もちろん会社の金を使い込んだのでもなければギャンブルに明け暮れたのでもない、チームの成績不振という理由で突然……青天のへきれきである。

 今年からウォルフがエグゼクティブディレクターに就いたメルセデスF1チームは、昨年まで長い間メルセデスのモータースポーツを統括してきたノルベルト・ハウグを昨年末でクビにした。表向きは不振の責任を取って本人の意志で辞任したということたが、現実はクビになったのだろう。組織のトップで良い思いをしてきた人間が、簡単に自分から身を引くわけがない。

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著者プロフィール

赤井邦彦:世界中を縦横無尽に飛び回り、F1やWECを中心に取材するジャーナリスト。F1関連を中心に、自動車業界や航空業界などに関する著書多数。Twitter(@akaikunihiko)やFacebookを活用した、歯に衣着せぬ(本人曰く「歯に衣着せる」)物言いにも注目。2013年3月より本連載『エフワン見聞録』を開始。月2回の更新予定である。

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