宇佐美が語る競技人生とバレー界への提言=北京五輪代表セッターが引退

米虫紀子

日本に必要なのは緻密なバレー

今の日本に必要なのは緻密なバレーだと語る。第2の人生を送る宇佐美は日本バレーの未来を次世代の選手たちに託す 【坂本清】

――今季のパナソニックは“脱宇佐美”を図ろうとして苦労した時期もありました。見ていて歯がゆかったのでは?

 いや、歯がゆいというのはないですけど、(後輩セッターの)大竹(貴久)とはずっと一緒にやってきましたから、覇気を出して頑張ってほしい。まあ、それぞれ性格もありますから一概には言えないんですけど、自分に足りない部分を補うものを見つけてほしいなと思います。僕の場合は、頭でっかちになりたくなかったし、あまり詰め込みすぎちゃうとパンクしてしまいます。だから、データは見ることは見るんですが、詰め込みすぎないようにして、それを補うためにコートの中でいろんなものを見るようにしました。大竹はそういうものが苦手なのであれば、頭に詰め込んだ方が良いだろうし、いろいろ勉強していってほしいですね。今年加入したばかりの深津(英臣)は、いろいろな経験をしてきているので、トスの配分やスパイカーの使い方はすごく良いものがある。センターもよく使いますしね。さらに経験を積んでいってほしいです。

――現役を去るにあたって、これからの男子バレーにこうなってほしいというような期待はありますか?

 僕個人の考えとしては、はっきり言って世界との差はあると思っています。相手は、拾って何とかできるようなレベルのパワーでも高さでもないし、サーブで何とかするといっても、今の日本の選手にそんな力があるかといえば、難しいと思います。これから日本がどうやって勝っていけばいいかというのは、すごく難しいところですが、小さいなら小さいなりのことをしなければいけない。(ブロックの)上からガンガン打とうとしているだけでは、僕は先にはつながらないんじゃないかと思います。そういった意味で、本当に緻密(ちみつ)なバレーをすることが、日本には必要だと思います。

教員として送る第2の人生

 秋田県の公立高校の教員という、第2の人生をスタートさせた宇佐美。4月1日からすでにその業務は始まっており、優勝決定戦までの2週間は二足のわらじ状態だった。教員として何もかもが初めての仕事をこなしながら、コンディションを維持するのは至難の業だ。チームに合流した時の宇佐美の疲労困憊(こんぱい)の表情に驚いたと、パナソニックの南部監督は言う。

「彼のあんな顔を初めて見ました。勝ち気な性格なんですが、あの時は、もうまいりましたというような顔で。でも、今日、最後まで戦い抜いてくれたあの姿を見て、高校1年の頃から見てきた宇佐美の最後の監督が自分だったということを、非常にうれしく思っています」と、優勝決定戦後、感慨深げに語った。

 セミファイナル後チームメートとコンビを合わせたのは3回だけ。それでも宇佐美は、不安や疲れをコート上では一切見せなかった。コートの外からでもピタリと正確な二段トスを上げるなど、持ち前のパフォーマンスを存分に発揮し、苦しい場面でも笑顔で周囲に声をかけた。

 それでも宇佐美は、「今日は、福澤の調子が上がらなかった時に、何とか楽にしてあげる方法を、もっと早く探さなきゃいけなかった」と最後まで反省を口にした。

 並外れた身体能力や技術は若い頃から高く評価されたが、スパイカーとのコミュニケーションという面では器用ではなかった。それでも長いセッター経験の中で、苦労を重ねながら少しずつ培った、人を見ることや人を生かす術は、教員、指導者としての人生にも、必ず役立つに違いない。

<了> 

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著者プロフィール

大阪府生まれ。大学卒業後、広告会社にコピーライターとして勤務したのち、フリーのライターに。野球、バレーボールを中心に取材を続ける。『Number』(文藝春秋)、『月刊バレーボール』(日本文化出版)、『プロ野球ai』(日刊スポーツ出版社)、『バボちゃんネット』などに執筆。著書に『ブラジルバレーを最強にした「人」と「システム」』(東邦出版)。

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