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久光製薬を頂点に導いた2人の新星
長岡、石井を育てた世界基準のバレー

中田監督指導の下、世界を意識する久光製薬

長岡(右)はリーグ終盤で好調を維持。ファイナル進出の立役者となり、MVPにも輝いた
長岡(右)はリーグ終盤で好調を維持。ファイナル進出の立役者となり、MVPにも輝いた【坂本清】

 バレーボールのV・プレミアリーグ女子の決勝戦が13日、東京体育館で行われ、久光製薬スプリングスが東レアローズを3−0で下し、6季ぶり3回目のVリーグ制覇を成し遂げた。


 優勝が決まった瞬間を、2人一緒にコートで迎えることができたのはこれが初めてだった。

 

 長岡望悠と、石井優希。

 

 中田久美監督から将来を嘱望(しょくぼう)され、レギュラーに抜擢(ばってき)された同期の2人は、泣き笑いの表情で抱き合い、互いをねぎらい、勝利の喜びを分かち合った。


 今季からチームを率いる中田監督が、就任当初からチームに掲げてきたのはただ1つ。

「世界で戦う意識を持つこと」


 Vリーグで勝つことだけでなく、練習中から「世界」を意識する。

「日本の女子バレーは、常に世界のトップであってほしいと願っています。そのために、1人でも多くの選手を久光製薬から送り出すことが私の役目でもあるし、それに応えられるだけの力を持った選手がそろっていると信じていますから」


 たとえば、昨年のロンドン五輪で銅メダルを獲得した新鍋理沙には、常に「彼女は銅メダリスト。もっと高いレベルを維持してくれないと」とハードルを上げ、セッターでキャプテンの古藤千鶴には「チーム内で一番高い要求をしてきた」と言うように、常に選手たちの評価には一定の厳しさがあり、各自のレベルアップを求めてきた。

ファイナル進出の立役者となった長岡

 その中でも、最も期待をかけてきたのが、長岡と石井だ。


 どちらも爆発力やパワーを有するタイプのアタッカーではないが、ピンポイントでコースを狙える技があり、全日本代表候補にも選出されてきた。特にサウスポーの長岡は、右利きのアタッカーならば難しい、ライン際に放つストレートを武器とするなど、これからの全日本の戦力にもつながる、大きな可能性を秘めている選手だ。


「今シーズンは2人を育てることも、監督としての自分の課題」と明言してきた通り、中田監督は開幕から若い2人をスタメンで起用した。そのため、シーズン当初は新鍋や実力者の石田瑞穂が控えに回ることも余儀なくされた。


 リーグ戦前半の第1レグ、第2レグでは面白いように決まった長岡のスパイクも、第3レグ、第4レグと対戦機会を重ねてデータが増えると、当然、相手のブロックやレシーブが対応してくる。得意なコースを封じられ、決定率はさほど悪くはないのだが、相手のブロックに止められる。昨年末に行われた皇后杯決勝の東レ戦でも、長岡のスパイクが相手にブロックされる場面が増え、ブロックを避けると消極的なミスが続く。チームは優勝したが、長岡は途中で石田との交代を命じられ、勝利の瞬間はベンチにいた。


 短期決戦が続くVリーグのファイナルラウンドを前に、大事な舞台で自分は大丈夫なのか。不安を抱えていた。


「目の前のブロックを、怖いと思ってしまうこともあります。勝負しなければいけないのは分かっているのに、逃げてしまう自分もいて……。どうしたらいいのか、分からなくなることもありました」


 そんな長岡を気に掛け、声を掛けたのが中田監督だった。


「朝、顔を合わせたら『昨日は良かったじゃない』とか、試合中も『強打だけじゃなくて、フェイントもしてみたらいいんじゃないの?』と久美さんが声を掛けてくれるだけでホッとしました」


 与えられたチャンスを生かすも殺すも自分次第。自らを鼓舞し、迎えたセミファイナル。中田監督が「体のキレがすごい。打てば打つだけ決まる感じで、苦しい場面でよく得点してくれた」と称賛したように、長岡は1戦目の東レ戦からNECレッドロケッツ、岡山シーガルズと3連戦すべてで好調をキープ。長岡は、ファイナル進出の立役者となった。

田中夕子
神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など、女子アスリートの著書や、前橋育英高校野球部・荒井直樹監督の『当たり前の積み重ねが本物になる』では構成を担当