宇賀地、柏原らに育つライバル意識――宗猛が目論む意識改革
合宿主将の宇賀地が受けた刺激
合宿主将に任命された宇賀地。写真は2012年11月、東日本実業団対抗駅伝 【Photo:YUTAKA/アフロスポーツ】
この合宿で最初から主将に任命され、暗黙のうちに「今回は宇賀地中心でいく」という方針を与えられていた宇賀地は、今回の合宿での成果をこう話す。
「昨年の実業団の春合宿には参加できなかったけど、今回は他のチームの指導者と話せて意識が変わったのが収穫ですね。カネボウの高岡(寿成)コーチと短時間だけど話しをして『自分の立場を考えろ』と、日本のエース像に近いことを言われたんです。その後も東洋大の酒井監督に同じようなことを言われて。チームでは監督から常々言われていて、それは内輪の期待もあって当然だと思ったけど、別のチームの指導者に言われて初めて『そうなんだ』と思って。『そういう気持ちがなかったから今まで勝てなかったんだ』と思いました」
また初めて一緒に練習した宮脇が練習ではあまり強くないことを知り「これは絶対に負けられない」と思うとともに、「この練習であのタイムなら、しっかり練習をするようになればもっと強くなる」と恐怖感も感じたという。
一方の宮脇も「宇賀地さんのような練習ができなければ強くなれない」と思い、後半のポイント練習では意地でも先着しようと頑張っていたのだ。
宗猛部長は「選手たちは試合並のストレスを感じてポイント練習をしているはず」とその効果を口にする。
箱根の先の「世界」を目指して
「ロンドン五輪でエチオピアが実績抜きで2時間4分台の選手を3人選んで総崩れしたように、夏場のマラソンでは条件の良い中で出した記録はあてにならないし、選考方法も見直さなくてはいけないと思うんです。そう考えると選手たちには、こういう合宿に参加して『自分は暑さに強い』というのもアピールしてもらいたいですね。それに最近面白いなと思うのは、一時は『マラソンは……』という選手が多かったが、ここへ来て『マラソンをやりたい』という選手が増えていることです。実際、海外レースは終わってないが、現時点で世界選手権代表の5人(を選ぶ)となれば、全員が2時間8分台となる。2年前の世界選手権では8分台は川内ひとりだったから、その点では上がっている。それに続く選手としても前回のように無欲ではなく、『世界選手権に出たい』という気持ちでびわ湖を走って2時間09分06秒で走った山本亮(佐川急便)や、調整が不十分ながらも2時間09分31秒で走った藤原新(ミキハウス)は、世界選手権に出ても戦える力があるといえる。その点でもレベルは上がっているから、こういう合宿で指導者も選手も意識を変えて練習への取り組みを少しずつ変えていければ。まずは8分台の選手を増やすことだが、その次は7分台、次は6分台とみんながワーッと上がっていきそうな雰囲気はありますね」
合宿の適正人数を守るため、今後は参加標準記録の引き上げも考えなくてはいけないだろうという、陸連と実業団連合の合同合宿。この合宿へ対する選手の意識がもっと変わり、参加するのがステイタスのようになれば、さらにレベルの高い練習で刺激し合えるようにもなるはずだし、学生にしても箱根を突き抜けた先の世界を肌で実感できるものになる。
選手だけではなく指導者の意識も変えたいという狙いの合宿。その雰囲気からは、日本男子長距離の光明も見えてきたような気もした。
<了>