宇賀地、柏原らに育つライバル意識――宗猛が目論む意識改革

折山淑美

合宿参加標準記録も設定 早大・渡辺監督らも参加

13年ぶりに陸連主動の合宿を復活させた宗猛中・長距離マラソン部長(右)。写真は2012年12月福岡国際マラソン、2位の堀端宏行と 【写真は共同】

 3月19日から宮崎県延岡市で行われた日本陸連長距離合宿。これは昨年日本陸連の中・長距離マラソン部長に就任した宗猛氏が、13年ぶりに復活させた合宿だった。
「以前から日本実業団連合の長距離・マラソン部長もやっていて、2年前からは春と夏に連合合宿を始めていたんです。チーム合宿の延長ではなく緊張感のある合宿にしたいと思い、参加標準記録も設定した。それで最近は合宿に参加する選手も相当な覚悟を持って、『よし、やってやるぞ!』という気持ちで来る者も多くなり、若い選手が『この選手に付いてやろう』と挑戦するなど質の高い練習をできるようになっていた。それで僕が日本陸連の中・長距離マラソン部長になったから、実業団連合の合宿とうまく合わせてやればいいかなと思ったんです。陸連の枠なら実業団に所属していない川内優輝(埼玉県庁)や藤原新(ミキハウス)も呼べるし、U23枠に入る学生も一緒にやることができる。そういう形で強い選手が集まった合宿をやれば面白いなと思ったんです」

 以前の陸連合宿は当時、陸連の中・長距離マラソン部長だった宗茂氏の時にやっていたもの。選手たちは反省会で「自分は情けない。こんなのではダメだ」と涙を流すほど熱い気持ちや緊張感を持ってやっていたという。だが茂氏は実業団連合の強化には携わっていなかったため、それを合同でやることはできなかった。今回は、宗猛部長が両方の部長を兼ねていたことで、それが実現したのだ。実業団との合同合宿にしたのは、もう一歩突き抜けられない選手などのレベルを上げ、層を厚くしたいという思いもある。

「たった10日間の合宿で強くなるというのはありえないから、今回の目的は指導者や選手の意識改革ですね。こういう合宿に参加することでいろいろな選手と接したり、いろんな指導者と接して意識を変えるようなことができればプラスになる。だから今回は選手だけではなく、学連からも駒大の大八木弘明監督や東洋大の酒井俊幸監督、東海大の両角速(はやし)監督も来たし、陸連の委員になっている早大の渡辺康幸監督も来た。それに実業団の指導者もいて。こんなに多くの指導者が集まった合宿はないと思いますね」

練習脱落なら、即刻「帰れ指令」の厳しさ

柏原も合宿に参加。宇賀地ら他チーム選手から刺激も。写真は1月のニューイヤー駅伝 【Photo:中西祐介/アフロスポーツ】

 今回はマラソン組はシーズンが終了したばかりで参加できず、日本選手権を1万メートルなどで狙うような長距離組のみ。九州地区の実業団も各種の試合が終わったばかりで旭化成と三菱重工長崎のみの参加だったが、ポイント練習をできることが条件で40数名の選手が参加した。実業団ではコニカミノルタの宇賀地強やトヨタ自動車の宮脇千博、富士通の柏原竜二、実業団ハーフで優勝したばかりの丸山文裕(旭化成)。学生勢は東洋大の設楽啓太・悠太兄弟や早大の山本修平。駒大勢も前半は中村匠吾、後半はニューヨークシティハーフを走ったばかりの村山謙太も来ていたが、ポイント練習で2回続けて走れない選手は所属チームの監督からは即刻、帰れという指令が出るほどの厳しさだった。

「僕ら指導者が見ても、やっている選手にしても『面白いな』という練習が一番なんです。レベルの高い選手が集まると、ポイント練習でペース設定をしても、気持ちがはやるからだんだんペースが上がっていくもの。その中で選手たちが『ここで離れるわけにはいかない』という気迫を出すから見ていて面白いんです。そういう中で選手にライバル意識を作ってもらいたい。『あいつには負けない、絶対に勝つんだ』という気持ちを持って初めて、上に上がっていけるんです。実際に今回も、宇賀地と宮脇が火花が散るような走りをしていると、柏原がそれを横目で見て『俺も』という感じになる。設楽兄弟も無表情だが走りには気迫を込めているし、最近グーっと力をつけた丸山も「よし、この連中に勝とう」という気持ちを感じさせる。そういうものを指導者も感じて『面白いですね今日は。こういう練習をさせなければいけない』という気持ちになるんです」

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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