内田の“先見の明”で紐解く日本の課題=清武との絶妙コンビで見出した光明

元川悦子

清武のポジションチェンジによって生まれた好機

清武が右サイドに入ってからは、内田(左)が果敢にオーバーラップする機会も増えた 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 2点ビハインドの状況でザッケローニ監督が採ったさい配が、内田の追い風になった。指揮官は2列目の両サイドのポジションを入れ替え、右に清武、左に岡崎という並びにしたのだ。内田はもともと前線で起点を作ってくれる選手と組んだ方が生きるタイプ。より効果的な攻め上がりも見せられる。シャルケでファルファン、岡田武史前監督が率いていた代表で中村俊輔と組んだ時などは、まさに象徴的だ。「キヨ(清武)はトップ下みたいなタイプだから、彼とやる時はまた1つポイントになる」と内田自身も歓迎していたが、ここから右サイドを駆け上がる回数が一気に増えたのは確かだ。

「前半は(自分のいる)左サイドで相手がアタフタしていて、結構チャンスが作れたんですけど、途中で入ってきた5番(アドナン・ハサン)が僕にマンマーク気味に来るようになった。それで後半立ち上がりはなかなかチャンスを作れなかったけど、右に行ったらまた崩せるようになりました」と清武も前向きにコメントした通り、守りが手薄なヨルダンの左サイドを彼ら2人が連携して攻略するようになったのは大きかった。前半は左寄りの攻め中心だった日本の右サイドが確実に活性化されたのである。

 この流れで主導権を取り戻した日本は、清武のアシストから香川が1点を返し、チームに勢いを与える。それから1分もたたないうちに、内田は相手の動きを見逃さず、猛然と裏へ飛び込んだ。そこに清武から絶妙のスルーパスが来る。その先のプレーを阻止するために、アブダラー・デイブ(14番)はペナルティーエリア内にも関わらず、大胆なスライディングを仕掛けてきた。倒された内田はPKをゲット。1度は絶望の淵に立たされたチームにようやくブラジル行きの希望の光が見えてきた。

「キヨがこっちに来て、右サイドでリズムが出てきたんで、もっと高い位置に行こうと思った矢先にああいうプレーになった。足はかかっていないですけど、(笛を)吹いてくれればラッキーだなと思ったし、あのタイミングでエリア内でスライディングしてきた相手が悪いかなと。ただ、PKを取ったことでみんながすごく喜んでいた。僕は『まだ入ってないよ』と言って、後ろに戻ったんですけどね……」

 北京五輪日本代表を指揮した反町康治監督が「内田は先が見えすぎるところがある」と皮肉交じりに語ったことがあるが、この時もそうだったのかもしれない。彼が懸念した通り、PK職人・遠藤保仁のシュートがGKアメル・シャディに止められるという予期せぬアクシデントが起きた。「PKを外すことは誰でもある。どんなすごい選手だってそうだから」と今野も同じクラブの先輩を庇(かば)ったが、PKを取った内田自身もやむを得ないという心境だったに違いない。

目標を高く持つ内田が見据える未来

 このヤマ場を得点につなげられなかった日本は、2004年アジアカップ(中国)、2011年アジアカップ(カタール)でも激闘を強いられた因縁の相手・ヨルダンに初めて苦杯を喫することになった。

「本田さんと長友(佑都)さんがいないから負けたと言われるのは仕方ないこと。この試合の流れで本田さんの良さ、長友さんの良さがあったら、どんな感じになってたのか……。でも、いなかったんだからしょうがない。アジア予選は長いし、誰が出ても勝っていく力がないとね。真司も負けたから『気負っていた』という話になるけど、あくまで結果。高徳だって左サイドでよくバランスを取っていたと思いますよ」と内田は落胆するチームメートへの気配りを忘れなかった。

 そんな言葉を口にするのも、代表で結果を出せないことの辛さ、悔しさを誰よりもよく知っているからだ。南アフリカW杯の出場権を勝ち取った4年前のウズベキスタン戦(タシケント)を体調不良で棒に振り、最終的にW杯本大会でピッチに立てなかった負の連鎖は、10代のころから日の丸をつけてきた内田にとって最初の大きな挫折だといっていい。あれから3年、内田は世界のトップレベルに身を投じ、自分自身を磨き続けてきた。だからこそ、今回は自らの力でブラジル行きの切符を引き寄せ、1年後の本番で世界と互角に渡り合わなければならない。高い目標を見据える彼には、1つの敗戦で足踏みしている暇はないのだ。

「次に集まるのは5月末。シーズンも終わっている。それまでにどれだけ個人として成長できるかだと思う。自分も含めてクラブで優勝を狙えるところにいる選手は多いし、優勝できるやつは優勝して自信をつけて戻ってこないとね。オーストラリアもホームでオマーンに引き分けて苦しい展開になってるし、サッカーは簡単にはいかない。そういう中でも勝ちきれるようにしたいです」

 ブンデスリーガ終盤戦を迎えた今季のシャルケは現時点で5位。乾貴士のいるフランクフルトらと激しい4位グループ争いをしている。ここから巻き返して上位に躍進するのは至難の業だが、6月4日のオーストラリア戦で確実に勝利を収めるためにも、タフな戦いを乗り越えるしかない。この2カ月で内田篤人がヨルダン戦で直面した守備の課題を克服し、持ち前の攻撃力にどう磨きをかけるのか……。そこに期待しつつ見守りたい。

<了>

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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