スーパーラグビーで証明した日本人の可能性=田中&堀江の海外挑戦から見えたもの

向風見也

スクラムハーフの田中はスペースを作って味方を生かす。同僚とのコミュニケーションを図るため「断髪式」を行って坊主にした 【Getty Images】

 南半球諸国のトップクラブからなるスーパーラグビーは、野球のメジャーリーグ、サッカーのチャンピオンズリーグにあたるステージだ。今季はニュージーランドのハイランダーズに田中史朗、オーストラリアのレベルズに堀江翔太が在籍。初の日本人選手として注目を集めている。全日程中約3分の1を消化した現時点で、2人が見たものは――。

小柄な田中は味方を生かすプレーに手応え

 こちらと向こうの人数を把握しつつ、接点から球を持ち出す。目の前に並ぶタックラーを引き付け、その外側に味方の数的優位を作ってパスを放つ。リズムを作る。

 身長166センチ、体重75キロと一戦級にあっては小柄で、足も速くないと自認する田中だが、パスの供給源たるスクラムハーフとして持ち前のスペース感覚を生かしている。
 2007年に京都産業大を卒業。パナソニック ワイルドナイツの前身である三洋電機で、元ニュージーランド代表の司令塔、トニー・ブラウンと出会う。後にオタゴ州代表監督として海外挑戦の道を作ったこの人とプレーする中、判断を誤るたびに怒られ、悔しいからと試合をビデオで見返し、結果、今のスタイルを作り上げた。

 スペースへのパスは受け手との呼吸、普段からのコミュニケーションが肝となるが、ハイランダーズに合流して間もなく、田中は現地では珍しい五厘刈りでクラブハウスに登場。リザーブスタートとなった2月22日の今季初戦が近づくと、皆の前で「断髪式」を行った。キャラクターを認識させて同僚との距離を縮め、自らの考えを伝えていった。頭にバリカンを2度入れたころには、「スペースを作って味方を生かす考え方を、周りは理解してくれている」と話していたものだ。

 チームは4連敗中で、自身も開幕から途中出場が続く。3月22日のハミルトンでは、チーフスに7−19で敗れた4戦目をベンチの外で見届けた。今後はさらなる連係強化が必要と話す。しかし、日本で得意だったプレーがスーパーラグビーで通じていることには手応えがあるようだ。遠慮がちに、つぶやく。

「僕自身、数的優位を作るということはできている。まあ、自分を足した味方と相手が何対何かを分かれば、誰でもできると思いますけど」

細やかなランで守備網を突破する堀江

 長所がそのまま受け入れられているのは、身長180センチ、体重104キロの堀江も同じだ。これまで3試合で途中出場を果たした。
 特に3月2日、26−31と惜敗したシドニーでのワラタス戦だ。後半20分に投入されるや、人垣をするするとすり抜け観客を沸かせた。

 相手をセンチ単位でかわす細やかなランは、確かな積み重ねの産物だ。帝京大時代のコーチは証言する。試合のワンシーンを切り取った練習で他の選手が足を止めるところを、堀江は1人だけ走り続けていたと。実際のゲームで起こり得る、次の局面を常にイメージしていたのだ。いざ本番、球をもらいやすいポジショニングをいち早く見つけ、同時に、相手の守備網や出方を観察できた。09年には田中のいる三洋電機に入り、日本最高峰であるトップリーグの10年度シーズンMVPに輝いた。

「思ったより、スペースがあったりする」

 ワラタス戦での突破についてはこう語る。ただ漫然と駆け抜けられたのではなく、持ち味を発揮しやすいと感じたのである。

「あんまり、こっちのディフェンスは整備されていないところもある。個々の判断で詰めてきたりするんで(単独で前に突っ込んできたりする)。日本の方が、人がびっしり並んでいたような感じがありますね」

 そう、スーパーラグビーでは一人ひとりのタックルは力強くとも、防御組織が凸凹なクラブが少なくないというのだ。わずかな隙間を射抜いてきた堀江としては、願ってもない状況だろう。何より、守りの網を張る日本人の勤勉さもおのずと再確認できた。とかく陥りがちな「列強はすべてにおいて日本人に勝る」との先入観には、やはり盲点がある。それを具体的に証明できただけでも、国産選手の世界進出には価値があるのだ。

世界トップとの差は「激しさ」

 もちろん、南アフリカを含むスーパーラグビー加盟国が世界の先端にあることもまた事実だ。日本人が感じる世界との隔たりは、ズバリ、「激しさ」だろう。

「課題はセットプレー。特にスクラム。(相手に比べて自分は)身体、ちっちゃいんでね。そこはもっとやっていかんと」

 フッカーの堀江は決意を込める。12年秋、日本代表のヨーロッパ遠征でも、最前列中央で組みスクラムを押し込まれた。国内にはない「激しさ」へ対応すべく、さらなる筋力アップを目指すのだ。

 もっとも、この「激しさ」には、フィジカル面以外の要素も多く含まれている。スーパーラグビーにおけるボール争奪局面は、ただ大男が並ぶだけではない。相手側に1ミリでも腕を伸ばそうという気概が、日本のそれ以上に伝わってくるのである。そんな圧力を受けながらパスをさばく田中は、こう語る。

「こっちの選手は、どんだけしんどくても身体が動く。ただ日本人は、身体が動くのにしんどいから行かない、というのが目に見える場面でして……」

 体格差はともかく、意識はすぐに変えられるだろう。そんな思いを込めてか、今後スーパーラグビーに挑む日本人には「チームのために身体を張れることが大事」と田中は伝えたいようだ。工夫してスペースを作る頭脳派とて、物事を突き詰めれば精神論に行き着くのである。

 エディー・ジョーンズ日本代表ヘッドコーチは、選手の海外挑戦には賛成の立場だ。誰にもない自分たちの良さと、やはり存在した彼我の力量差。これらを1人でも多くの若者に実感してほしいのだ。

<了>
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著者プロフィール

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとなり、主にラグビーに関するリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「スポルティーバ」「スポーツナビ」「ラグビーリパブリック」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。

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