王者スペインが直面する深刻な問題=地に落ちたアルゼンチンが見せる復調

アルゼンチンが補った中盤の構成力不足

低調なスペイン代表とは対照的に復調したアルゼンチン。W杯南米予選でも首位を快走する 【写真:ロイター/アフロ】

 バルセロナの選手がメンバーの大半を占め、プレースタイルも限りなくバルセロナに近いスペインには、攻撃面で最も重要な役割を担うべきメッシがいない。対照的にアルゼンチンはそのメッシを擁するものの、ダイレクトで高い決定力を誇るそのプレースタイルはバルセロナよりレアル・マドリーのそれに近く、中盤の構成力不足という難点を抱えている。

 近年メッシは連動性を欠くチームの中で自身の能力を生かすことができず、代表戦でプレーする度に母国のファンやメディアから批判を受け、心に傷を負ってバルセロナに戻っていた。

 当時のメッシは中盤の構成力不足を補うべく、中盤の低い位置まで下がってボールを引き出し、そこから敵陣ペナルティーエリアまでの長い距離をドリブルで持ち運ぶハードワークを強いられていた。この問題を察知したアレハンドロ・サベージャ監督は、メッシが孤立せぬようゴンサロ・イグアイン、セルヒオ・アグエロ、アンヘル・ディマリアら3人のアタッカーを同時に起用する変動型4−3−3のシステムを考案。左サイドのディマリアが3ボランチの一角としてフェルナンド・ガゴ、ハビエル・マスチェラーノと共に後方からの組み立てをサポートするこのシステムでは、メッシがよりゴールに近い位置でのプレーに集中できるようになった。

メッシがチームに与える影響

 22日に行われたW杯南米予選。格下のベネズエラをホームのブエノスアイレスに迎えた一戦ではアグエロをけが、ディマリアを出場停止で欠いたため、サベージャは左サイドにサントスのワルテル・モンティージョ、前線にはエセキエル・ラベッシを起用した。彼らはレギュラーの2人ほど重要な動きこそできなかったものの、鍵となるプレーで決定的な役割を果たしたメッシが3ゴールすべてに絡む活躍もあり、結果は3−0の快勝となった。

 優れた得点力を持つアタッカーが前線にそろうアルゼンチンにとって、ボールポゼッションは自分たちのポテンシャルをスコアに反映させる上であまり重要な要素ではない。この試合では、その事実をあらためて確認することができた。
 ボールは持つがメッシを持たないスペインと、メッシを擁するがボールは持たないアルゼンチン。どちらのスタイルを好むかは人それぞれであり、その優劣を決めるのは結果である。

 1年前まで幸福の極みにあったチームが突如として窮地に立たされた一方、11年のコパ・アメリカで敗れて6月のコンフェデレーションズカップにも出場できないチームがW杯出場へ向け順調に歩みを進めている。

 フットボール界における立場を逆転させたスペインとアルゼンチン。とはいえ、それも今現在の話であり、数カ月後にはその状況が再び大きく変わっている可能性は十分にあるだろう。

<了>

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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