ソチ五輪へ、あらためて考える「質」の大切さ 真央、ヨナ、コストナーが持つ高い基礎力

野口美恵

基礎力の高さを魅せた浅田(写真)ら世界フィギュアのトップ3。勝負の鍵は大技成功の可否だけではない 【坂本清】

 世界選手権2013が終了した。日本勢のメダルは浅田真央(中京大)の銅メダルのみ。男女複数メダルが期待されていただけに、消化不良の結果だったかも知れない。しかしソチ五輪の前シーズンとしては、男女とも五輪3枠を獲得し、課題ももらった意味のある大会だったろう。今季を振り返りながら、ソチ五輪に向けた女子の勢力図を見つめていきたい。

ベテランに軍配 高い演技構成点

 今季は完全にベテラン勢に軍配が上がったといえる。復帰のキム・ヨナ(韓国)、カロリーナ・コストナー(イタリア)が金銀、浅田真央が銅と、見知った顔ぶれが並んだ。
 3人を支えるのは、高い演技構成点(PCS)。スピードのあるスケーティング力、巧みなフットワークから生み出される演技、音楽を体現する表現力などで、高い評価を得た。フリーのPCSは、「キム73.61」「コストナー70.69」「浅田68.41」で、「63.02」「62.11」「60.63」と続く4番目以下を引き離している。

安定感ある演技で世界フィギュア優勝を飾ったキム・ヨナ 【坂本清】

 さらにキムとコストナーは、技術面の得点傾向も似ている。ジャンプ、ステップの質が高く、出来栄え(GOE)での加点が大きい。技術の点をみると、キムは基礎点58.22に「GOE+16.51」で74.73点、コストナーは基礎点50.75に「GOE+10.59」で61.34点と、それぞれ点を伸ばした。3位の浅田は、基礎点62.30に「GOE+3.66」で65.96点と、大技を入れたわりには、技術の点で引き離せなかった。基礎点の高い難しい技を増やすよりも、質を磨くことでGOEの加点を積み重ねた選手が金銀メダル。作戦を考えさせる結果となった。

 このベテラン3人は個性は違えども、実力としては拮抗(きっこう)している。練習、戦略、ピーキングによってメダルの色は、ソチ五輪当日まで予想がつかないだろう。キムは「ブランクがあるので必死に練習してきた。ミスなく演技することを心掛けた」、コストナーは「スケートは私の人生の一部。来季を集大成にしたい」、浅田は「この3年間の練習がやっと身についてきた。まだまだ成長できる」とそれぞれ意欲を語る。

持ち味発揮した若手 李、ゴールド、村上

可憐な演技で、観客を魅了した李子君 【坂本清】

 一方、若手は今季のメダルには届かなかったが、ソチ五輪への期待値を高めた選手が多かった。中でもひときわ輝きを放ったのは、16歳の李子君(ジジュン・リー=中国)と、17歳のグレイシー・ゴールド(米国)。李は小柄な体つきで、コンパクトで無駄のないジャンプと、可憐な舞いが魅力。悪いクセがなく、フィギュアスケートの形式美をそのまま体現できるタイプだ。世界選手権では「3回転+3回転」も決め、フリーはパーフェクトで4位、総合7位。「大きな大会は初めてで、集中の方法を学ぶことができました」とにっこり。

 ゴールドは昨季からパワー全開の新星。バネのある筋肉と、スピードあふれる滑り、そして男子のように雄大なジャンプ。フィギュアスケートのスポーツ的な魅力を持ち合わせている。またダイナミック系の選手に陥りがちな“雑さ”がなく、四肢を綺麗に伸ばした美しさも加わる。総合6位で、五輪のメダル圏内まで上がり、「ジャッジに好印象を与えられる結果を出せてうれしいです」と来季への自信を見せた。

 18歳の村上佳菜子(中京大中京高)も大健闘。ショート、フリーともに大きなミスがなく演技をまとめた。今季は「心の面が大きく成長した」と言い、演技中に崩れることな最後まで集中力を持たせられるようになった。課題の表現面は、コンテンポラリーダンサーの指導のもと飛躍のきっかけをつかみつつある。総合4位に食い込み、世界トップスケーターの仲間入りを果たした。鈴木明子(邦和スポーツランド)は、世界選手権ではピークが合わず12位と苦しんだが、2012年銅メダリストの実力者。「今回は気持ちを強く持っていかなけった。あと1シーズンと決めているのでしっかり取り組みたい」と誓う。

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著者プロフィール

元毎日新聞記者、スポーツライター。自らのフィギュアスケート経験と審判資格をもとに、ルールや技術に正確な記事を執筆。日本オリンピック委員会広報部ライターとして、バンクーバー五輪を取材した。「Number」、「AERA」、「World Figure Skating」などに寄稿。最新著書は、“絶対王者”羽生結弦が7年にわたって築き上げてきた究極のメソッドと試行錯誤のプロセスが綴られた『羽生結弦 王者のメソッド』(文藝春秋)。

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