カナダ戦で明白になったベストのユニット=宇都宮徹壱のカタール&ヨルダン日記(3月22日)

宇都宮徹壱

本当にこの国でW杯が開催されるのか?

椰子(やし)の木陰で休日を楽しむカタールの人々。9年後、この国で開催されるW杯はどんな大会になるのだろう 【宇都宮徹壱】

 ドーハ滞在2日目。今日のカナダ戦は現地時間19時05分開始なので、午前中はたまった原稿の執筆に当て、午後は現地で働いている年上の友人の案内で市内をあちこち観光することにした。「観光」といってもドーハの場合、基本的に移動は車だ。幸い、友人の会社がドライバー付きの車を4時間ほど提供してくれたおかげで、まったくストレスを感じることなくドライブを楽しむことができた。

 この日は天候に恵まれ、しかもイスラムの休日に当たる金曜日でもあるため、街中では家族連れの姿をよく見かける。ペルシャ湾に面した海岸線では、地元の裕福な人々が三々五々繰り出しては、椰子(やし)の木陰で車座になって談笑している姿が印象的だ。

 そうかと思うと、休みの日も黙々と働く人々がいる。飲食店やホテルで働いているのはフィリピン人、タクシーやトラックのドライバーはパキスタン人やインド人、そして工事現場で働いているのはイエメン人であろうか。地元のカタール人は、名誉職のような肩書きを持つ人もいるにはいるが、ほとんど働かない。それでも天然資源のおかげで、今のところ国家は平穏無事に回っている。

 この国で、本当にワールドカップ(W杯)は開催されるのだろうか? ふと思い出したように私が問いかけると、年上の友人は苦笑いしながらこう答える。

「こっちで働いていると、W杯に向けてメトロを作るとか、世界中の観光客を受け入れるために新しいホテルを作るとか、いろいろ景気の良い話は聞こえてくるんですよ。でも、こっちの人たちは公共交通機関なんてまず使わないだろうし、ホテルをたくさん作ってもW杯が終わってから余った従業員をどうするのかとか、あんまり考えていないんですよね」

 およそ秋田県ほどの小さな国土と190万人程度の人口。けれども、オイルマネーはいくらでもある国、カタール。この良くも悪くも浮世離れした人工的な国で、2022年に開催されるW杯とは、果たしてどのようなものになるのだろうか。

5万人収容のスタジアムで行われる壮大な「テスト」

カナダ戦が行われるカリファ・インターナショナルスタジアムは、キックオフ1時間でも静まり返っていた 【宇都宮徹壱】

 人工的な国の首都で行われた日本対カナダの試合は、何とも不思議な雰囲気の中で行われた。21日の日記でも書いたとおり、会場のカリファ・インターナショナルスタジアムは、バックスタンドのみを開放し、それ以外の座席はすべてカバーで覆い隠してしまった。ずい分と静かな雰囲気の中で行われるのだろうなと思っていたのだが、実際にその場に居合わせてみると、何やら無観客試合のように味気ない。いちおうスタジアム内には派手なBGMが流れているが、かえって白々しく感じられてしまうくらいだ。会場の雰囲気がそんな感じだから、日本メディアばかりの記者席もまったりムード。隣の記者も生あくびを必死にかみ殺している。

 そういえばザッケローニは、前日会見で「テストマッチ」という言葉を何度も繰り返している。実は私は、この「テストマッチ」という言葉には慎重である。というのも以前、代表コラムで「テストマッチ」と書いたところ、ラグビーファンと思しき方からお叱りのメールを頂戴したからだ(ラグビーでの「テストマッチ」は、ナショナルチーム同士による真剣勝負を意味する)。ただしこの試合に関しては、どう見ても「テスト」としか言いようがないだろう。4日後のW杯最終予選のヨルダン戦に向けて、選手のコンディションを見極めるための、5万人収容のスタジアムで行われる、まさに壮大な「テスト」である。

 この日のスターティングイレブンは以下のとおり。GK川島永嗣。DFは右から内田篤人、吉田麻也、伊野波雅彦、酒井高徳。MFは守備的な位置に遠藤保仁と長谷部誠、右に岡崎慎司、左に乾貴士、トップ下に香川真司。そして1トップには前田遼一である。周知のとおり、今回の招集メンバーには、本田圭佑と長友佑都は含まれていないため、彼らの不在をどのような陣容で埋めるかが注目された。ザッケローニの決断は、トップ下に香川、そして左サイドバックに酒井高というものであった。そしてコンディションが戻らない今野泰幸に代えて伊野波を起用し、左MFには同様の理由で清武弘嗣ではなく乾を置いた。

 チームの基本ベースを極力崩さず、一定のバランスを保ちながらメンバーの入れ替えを試していくという、いかにもザッケローニらしい選択。では、その結果はどうだったか。正直なところ、あまりサプライズはなかった、と言うほかない。日本での放映が深夜1時だったこともあり「寝落ちしてしまった」という人が続出したとしても、無理もない話だと思う。

1/2ページ

著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

新着記事

スポーツナビからのお知らせ

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント