WBCよりもMLB優先、不振米国が直面するジレンマ
「最高の成功」の中にアメリカは含まれていない
「最高の成功」と評された第3回WBC、しかしその盛り上がりの中に米国はいない 【Getty Images】
現地時間3月19日にサンフランシスコで行なわれた第3回ワールド・ベースボール・クラシック決勝戦のあと、完全優勝を遂げたドミニカ共和国のベンチ前でMLBのティム・ブロスナン副社長は誇らしげにそう語った。
実際に今大会の観客動員は過去最高を記録し、ドミニカ、プエルトリコ、台湾、日本などではテレビ視聴率も素晴らしい数値をマーク。特に8試合に渡って圧倒的な強さを示し、決勝戦後にはプエルトリコ選手たちとフィールドで握手を交わすスポーツマンシップまで示したドミニカのおかげもあって、華やかかつ後味の良い大会になったと言える。
ただ、その盛り上がりの中に、開催国であるアメリカは今回も含まれていない。今大会のアメリカは第1回に続いて決勝ラウンド進出すら果たせず、これでWBCでの通算成績は10勝10敗。期間中の国内の主要媒体の報道量も寂しいもので(取材に訪れた記者は大会に概ね好意的だったが)、今回も“注目度の低いイベント”のままで終わってしまった感がある。
米国代表のチーム作り、戦略の難しさ
そんな考えも間違いではないと思う一方で、アメリカ国内でも盛り上がった方がベターに決まっている。特にこの大会が“世界一決定戦”と銘打たれているのであれば、最高峰のリーグであるMLBの70%を占めるアメリカ選手、そのファンが興味を持たないのは残念としか言いようがない。
「僕にとって優先事項はフィリーズを世界一に導くこと。ワールドシリーズ勝利の方がWBCのトロフィーより重要だ」
WBC開幕直前には、フィリーズの左腕エースであるコール・ハメルズがそんなコメントを公に残して軽く話題になった。
その言葉で批判されるどころか、少なからずのメディアが“ハメルズは誰もが考えていることを代弁した”といった論調で伝えたのも印象的。実際に選手、各チームのGM、さらにはメディアが総じて同じように認識している点に、アメリカ代表のチーム作り、そして試合中の戦略の難しさがある。
“本気度”はアジア、中南米と比べるとまだまだ低く
特に3月14日に行なわれたドミニカ共和国とのWBC史上初対決では、期待通り、いや期待以上の激闘を展開。最後は3対1でドミニカが競り勝ったパワーハウス同士の1戦は、試合内容、球場の雰囲気の両面で大会最高級のゲームだった。試合後にはESPN.com、FOXスポーツといったメジャー媒体も、“WBCには素晴らしい可能性がある”と伝えていたものである。
ただ……これで愛国心と大会への関心が高まるかと思えば、続くプエルトリコ戦では精彩を欠いたまま敗戦。「勝利と同時に選手たちを無事に返すことも大事」と語り続けたジョー・トーリ監督はまるでオープン戦のような投手起用を繰り返し、明らかに準備不足の打者たちも工夫のない拙攻を続けた。
選手たちの“本気度”は過去2大会と比較すれば高かったのだろうが、それでも熱狂的なアジアや中南米の選手たちとは比べるべくもない。敗退後にブランドン・フィリップスが「他チームの情熱は私たちのそれとは完全に違っていた」と語った通り、準備、熱意、選手起用の自由度といった面で、他の国々と違いがあったのは誰も否定できない事実だろう。もちろんたった数戦でチームの評価を下すのは気が引けるが、これで3大会連続でスター軍団が失敗を繰り返しているのはやはり偶然とは思えない。