香川がユナイテッドにもたらす新たな武器=ハットトリックで見えた今後への可能性
アジア人として史上初の快挙
ルーニー(左)とのコンビからハットトリックを記録した香川。2人の連係は今後チームの武器となる可能性を秘めている 【Getty Images】
前半から自陣で引いて守るノーウィッチに苦しんでいたマンチェスター・ユナイテッドはこの1点で一気に試合の流れをつかんだ。トップ下ではなく、左サイドで先発した香川は、52分には前線に走るウェイン・ルーニーにロングスルーパスを通すなど、チャンスを作り続けた。そして76分、87分とルーニーのおぜん立てにより、なめらかなボールタッチから追加点。昨年9月29日のトッテナム戦以来、公式戦でゴールから見放され、得点することを切望していた男がプレミアリーグでアジア人初となるハットトリックをやってのけた。
この大車輪の活躍を現地メディアは称賛した。『スカイスポーツ』は「この日の彼を止めるのは難しかった。香川はハードワークをする中で、チームを勝利に導くクオリティーがあることを示した」と評価し、この試合のマン・オブ・ザ・マッチに選出した。同じくMVPに選んだのが『ユーロスポーツ』。「日本のスターが見せた最高級のパフォーマンスは心地よい午後を作り出した」とたたえ、チーム最高となる9点をつけた。「歴史を作った」と見出しを打ったのは『BBC』だ。フラムに所属していた稲本潤一(現川崎フロンターレ)がイングランドの地でハットトリックを達成しているが、それはUEFAカップ出場権を争うインタートトカップでのこと。昨シーズンまで7年間ユナイテッドに在籍していたパク・チソンも記録しておらず、香川はまさにアジア人として史上初の快挙を成し遂げた。
ルーニーとの良好なコンビネーション
イングランドは、イタリアやスペインに比べると戦術的に大味なところがある。ユナイテッドにしても選手同士が連動してパスをつなぐというよりも、個人技を主体としたサイドアタックに特徴がある。デビッド・ベッカムやクリスティアーノ・ロナウドらがエースナンバーの『7番』をつけていたことからもそれが分かるだろう。
そうしたチームにおいて、鋭い動き出しと繊細なテクニックを生かしたパスワークに特長のある香川が自身の持ち味を発揮するのは難しいことだったに違いない。アントニオ・バレンシアやダニー・ウェルベックは、ボールを持つとまずはドリブルすることを考え、香川が良いタイミングでパスを引き出そうとしても、息が合わないことが多かった。ただ、それは裏を返せば香川がまだ完全に信頼を得ていないととらえることもできる。
幸い、チームの絶対的な存在であるルーニーとは良好なコンビネーションを築きつつある。この日の3点中2点はルーニーからのアシスト。ゴールシーンだけではなく、香川の動きに合わせてパスを出したり、自身も動き出したりとうまくシンクロしていた。香川とルーニーのコンビはユナイテッドの新たな武器となる可能性を秘めている。
ファーガソン「香川は本来の姿を取り戻してきている」
この日の香川の3点目は、2列目からの動き出しと柔らかなファーストタッチで中央を突破するという、ドルトムント時代によく披露していたプレー。サイドアタックだけではなく、中央突破も攻撃のバリエーションに付け加えたいという意向で、ファーガソン監督は香川に白羽の矢を立てたと言われている。得意な形から決めたこのゴールはまさに指揮官が求めていたものだろう。
3月5日にはレアル・マドリーとの第2戦が控えている。『BBC』のコメンテーターであるスティーブ・ウィルソン氏は「ユナイテッドは、レアル・マドリーとジョゼ・モリーニョにメッセージを送った。シンジ・カガワというニューヒーローと特別なストライカーであるウェイン・ルーニーがいるということを」と語り、香川に期待を寄せた。出場機会があるかどうかは定かではないものの、白い巨人に少なからずアピールとなったのは間違いないだろう。
<了>
- 前へ
- 1
- 次へ
1/1ページ