威風堂々サブマリン、侍3連覇のカギは牧田

中島大輔

「自分のピッチングをすれば、抑えられる自信がある」

日本が誇るサブマリン・牧田がWBC3連覇のカギを握る 【写真は共同】

 侍ジャパンのクローザー候補に挙げられる牧田和久には、口癖のように語る言葉がある。社会人の日本通運から埼玉西武ライオンズに入団した2011年シーズン開幕前も、先発からクローザーに転向した同年シーズン途中も、先発を任された昨季も、そして今年1月、WBCに向けた意気込みを聞かれたときも同じセリフを繰り返した。

「自分のピッチングをすれば、抑えられる自信がある」

 一軍レベルの投手、ましてや日本代表クラスなら、誰もが自分の投球スタイルを確立しているものだ。相手打者は傾向をインプットし、攻略しようと挑んでくる。
 打者にとって牧田が厄介なのは、彼のスタイルが単純明快ではないからだ。牧田の言う「自分のピッチング」には、“裏腹”な部分が色濃くある。おそらく世界でも、牧田ほど二律背反の要素を備える投手は珍しいのではないだろうか。
 牧田がその真骨頂を発揮したのは、2月23日に行われた壮行試合のオーストラリア戦だ。1点リードで迎えた9回のマウンドに上がり、3者連続三振で締めた。
「久しぶりの抑えで緊張した」

投球の中の二面性、国際大会では小異が大差になる

 ルーキーイヤーの11年シーズン以来となるクローザーとしてのマウンドでは、ふたつの点が目についた。
 ひとつは、いつも通りの投球スタイルだ。3人の打者に投じた18球のうち、14球がストレート。華麗なアンダースローのフォームから技巧派と思われがちの牧田だが、強気に攻め込むのが本来のスタイルだ。地上から浮き上がってくるストレートに、オーストラリア打線は面食らった部分もあったのではないだろうか。
 もうひとつは、3者三振という“らしく”ない結果だ。昨季はパ・リーグ8位タイの108三振を奪っているものの、バットに空を切らせるのは牧田の持ち味ではない。
 WBCでのポイントについて、牧田はこう話している。
「三振や空振りを取るのではなく、打たせて取るという自分の持ち味を出せれば。ストライクゾーンの中で勝負していきたい。アンダースロー特有の目線のズレ、左右、高低、広く使っていきたい」

 剛と柔――。
 牧田攻略が難しいのは、投球の中に二面性を持ち合わせているからだ。130km台のストレートで強気に押したかと思えば、シンカーやカーブ、スライダーでバットの芯を外してくる。ストライクゾーンを幅広く使いながら、緩急を使うことができるのだ。
 その中で、相手打者のタイミングを巧みに外していく。腕の振りかぶり方や足を上げるタイミングなど、フォームにおける動作を微妙に変えることで、相手の間合いをずらすのだ。データの少ない未知なる相手と対戦する国際大会では特に、小異が大差になる。
 牧田が言う。
「ワインドアップからのクイックとか、フォームに強弱をつけてやっていきたいですね。バッターはタイミングで振ってきます。短期決戦だし、意表を突いてやっていければ、慌てて振ってくるかもしれません。投げていく中で探っていきたい」
 初めて見る投手は、どんな打者にとっても組みしづらい。それが牧田のように珍しいアンダースローで、かつ投球スタイルも多彩でつかみづらいとあれば、なおさらだ。
 加えて、牧田自身にも国際舞台向きの特長がある。メンタルの強さだ。チームの責任を背負った上で、上手く受け止める思考術を備えている。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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