ジョーダン50歳の節目で再燃する比較論=レブロンは神に近づけるか

杉浦大介

「レブロンはより大きく、強く、速い」

ジョーダンと比較される事が多いレブロン・ジェームス。プレースタイルは違えどその素材は後継者にふさわしい 【(c)Getty Images】

 そして、そのジョーダンが節目の50歳を迎えるのとほぼ同じタイミングで、現代の1人の怪物プレーヤーがキャリアのピークに達しようとしているのは、単なる偶然ではないのかもしれない。

 高校時代から“選ばれし男”と呼ばれ続けたマイアミ・ヒートのレブロン・ジェームズは、NBA入り9年目にして昨季初のファイナル制覇を達成した。おかげで精神的にも落ち着いたか、28歳で迎えた今季、完全開花の時期を迎えている。

 2月12日のポートランド・トレイルブレイザーズ戦に至るまで、前人未到の6試合連続30得点以上&FG(フィールドゴール)成功率60%超という記録を樹立。シーズン成績も平均27.0得点、8.1リバウンド、7.1アシストと自己最高級で、このままいけば2年連続4度目のシーズンMVPに輝く可能性も高そうだ。

 心・技・体のすべてが頂点近くで融合された今季のレブロンのプレーは、「めったに見られないレベル」とロサンゼルス・レイカーズのスティーブ・ナッシュが2月10日の対戦後に話した。そして、それと同時に、入団直後から多かったジョーダンとの比較論が米国国内では再び盛り上がり始めている。

「レブロンはマイケルよりすごい選手になれる。ジョーダンに比較するような選手が現れるとは思わなかったけど、レブロンはより大きく、強く、速い」

 昨季のオフ中には、ジョーダンのライバルの1人だったチャールズ・バークリーがそうコメントしている。さらに、ジョーダンの現役時代にブルズを率いた名将フィル・ジャクソンHC(ヘッドコーチ)までもが、レブロンは「マイケル・ジョーダンに匹敵するだけのツールを備えている」といった趣旨の発言を残して話題を呼んだ。

 先週には、デトロイト・ピストンズ時代にジョーダンの宿敵と言える存在だった元名PG(ポイントガード)アイザイア・トーマスも2人の比較論に参画。「両者が実際にコート上で対決すると仮定した場合は、どんなルールか、どのコーチの指導下かということが大きく関わってくる(ので答え難い)」と前置きしながらも、トーマスもレブロンの身体能力がジョーダン以上であることを指摘していた。

「私たちの世代にはマイケル・ジョーダンのようなアスリートはいなかった。彼は誰よりも高くジャンプし、誰よりも速い、最高のアスリートだった。レブロンは現代最高のアスリートで、そして身体能力という面ではマイケル・ジョーダンより上だろう。レブロンはより大きく、速く、強い」

レブロン≒マジック・ジョンソン

 しかし、86〜87年には平均37.1得点をマークした“暗殺者”的なスコアラーであるジョーダンと、生粋のオールラウンダーであるレブロンが、根本的には違うタイプの選手であることは断っておきたい。

「レブロンはシャキール・オニール(13年連続20得点10リバウンド以上をマークした怪物センター)とスティーブ・ナッシュ(05〜06年に2年連続MVPを獲得した司令塔)を融合したような選手だ」

『ESPN.com』のトム・ハーバーストロー記者のそんな例えは少々オーバーにしても、基本的に何でもこなせるのがレブロンの最大の長所であることは確かだ。

 得点力だけでなく、天性のパス能力、PGからセンターまでどんなポジションでもガードできる守備力も驚異としか言いようがなく、「レブロンはジョーダンよりもマジック・ジョンソンに近い」という声が多いのも納得。より純粋なスコアラーであるコービー・ブライアント(レイカーズ)の方が、スタイル的にはよりジョーダンに近い選手である。

記録にはないジョーダンの偉業

 それでも、たとえタイプは違うとしても、プロスポーツ選手としてのスケールの大きさでは、レブロンはジョーダン以来の素材と言って差し支えないのではないか。

 まだ発展途上であることを感じさせながら12年にシーズンMVP、ファイナル制覇、ファイナルMVP、五輪金メダルをすべて達成。現時点でNBA最高の選手として認められており、全米からも尊敬を集め始めている。NBAの、ひいては“米スポーツ界の顔”としての役目を引き継いだという意味で、レブロンをジョーダンの後継者と呼んでも構わないようにも思える。

「ジョーダンのような選手はもう二度と出てはこない。彼がやり遂げたことのすべてがある意味で革新的だった。そして、それらを華やかな形で成し遂げたから、人々は今でもマイケルのようになりたいと願い続けているんだ」

 ウェイドがそう語り残した通り、レブロンが真の意味でジョーダンの背中をとらえるのは並大抵の難しさではないだろう。

 破格のパワーで1920年代にベースボールの魅力を知らしめたベーブ・ルースと同じような意味で、ジョーダンはNBAを人気リーグにした立役者。そんな歴史的偉人に近づき、追い越そうと思えば、優勝リングの数で肩を並べる以上のインパクトが必要になってくる。

 優勝回数だけでなくリーグのあらゆる個人記録を塗り替えるか。史上2人目のシーズン平均記録でトリプル・ダブルでも達成するか(編注:NBA史上では、オスカー・ロバートソンがただ1人、シーズン平均記録でトリプル・ダブルの成績を残している)。あるいは、中国、欧州へのNBAへのさらなる人気拡大に何らかの形で貢献するか……。

 まだ優勝経験が1回だけで、おそらくは10年前後の現役生活を残した選手を“史上最高のプレーヤー”と正面から比較するのは、あまりにも早計すぎるのも事実である。それでも、“バスケットボールの神”とまで呼ばれた男が50歳を迎えた今シーズン、現代のヒーローである“選ばれし男”が完全に本格化したことはどこか運命的にも思えてくる。

 歴史のトーチはついに次のランナーに手渡されたのか。レブロンはこれから先、いったどんな素晴らしいキャリアを紡いでいってくれるのか。

 スポーツファンは、今後しばらくNBAから目を離すべきではなさそうである。長い年月が経ったとき、12−13シーズンは歴史の1つのターニングポイントとして振り返られることになるかもしれないからだ。

<了>

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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