日本ラグビーを強くする外国人選手+α=ラグビー日本選手権総括

向風見也

2冠王者サントリーを引っ張る「ジャッカル」

2季連続2冠を果たしたサントリー。ジョージ・スミスら外国人選手の活躍に加え、チーム全員の献身性が強さを生み出している 【写真:北村大樹/アフロスポーツ】

 オーストラリア代表として3ケタの国際試合で身体を張ってきたジョージ・スミスは、この午後の東京・国立競技場でも、サントリーサンゴリアスの背番号6をつけて持ち味を発揮した。

 2013年2月24日、ラグビーシーズンを締めくくる日本選手権が決勝を迎えた。グラウンド中央付近で、神戸製鋼コベルコスティーラーズが連続攻撃を仕掛ける。入部2年目のフランカーであるスミスは、サントリーの仲間と連係を取りつつそれをしのいでいる。

 身長180センチ、体重104キロ。一線級のラガーにあってそう大きくない身体で、世界中のラグビーファンに支持者を作ってきた。密集で相手の球をもぎ取るのが得意で、そのプレーにはこの人の愛称でもある「ジャッカル」という名が付いている。「常にジャッカルに行く意識でいます」と語るが、実際は、局面ごとにボール奪取を狙うか否かを考えながらプレーする。攻撃に有利とされる現行ルールのもとでは、「ジャッカル」は反則と紙一重でもある。合法的かつ確実な成功に向け、牙は研がれているのだ。

 右タッチライン際で、仲間が鋭いタックルで相手を倒す。今だ。スミスが身を投げ出す。絡まれた側が接点からボールを手放さないノット・リリース・ザ・ボールの反則を誘うや、自ら球を持ち出し直進する。「ジャッカル」の走りを起点に、周りの味方が逆側にパスをつないでゆく。前半16分、日本代表のウイング小野澤宏時が、この日チーム2本目のトライを決めた。

 その後もサントリーは着実に加点し、36−20で勝利を収めた。日本選手権3連覇を果たすとともに、日本最高峰のトップリーグを含めた「2冠」を2季連続で達成したのだった。

大きな影響をもたらす外国人選手たち

 近年、日本のラグビー界には世界トップクラスの選手が最高潮の状態で参入し続けている。サントリーは32歳のスミスの他に、南アフリカ代表が誇る30歳のスクラムハーフ、フーリー・デュプレアら数名が在籍。敗れた神戸製鋼にも同じく南アフリカ代表で長らく正センターだった29歳のジャック・フーリーがいる。パナソニック ワイルドナイツに加わったニュージーランド代表の花形、27歳のソニー ビル・ウィリアムズ(SBW)は、観客動員増に大きく貢献した。

 この人たちは、大げさではなく日本ラグビー界に大きな影響を与えている。

 サントリーに在籍、日本代表のスクラムハーフである日和佐篤は、同じポジションのデュプレアからしばし個人レッスンを受ける。持ち前のスピードそのままに、視野の広さを身につけた。ちなみにデュプレア来日前の新人時代は、世界で最も多くの国同士の真剣勝負を戦った元オーストラリア代表のジョージ・グレーガンとチームメートだった。定位置争いが極端に激しい現状を、日和佐は本物に触れて成長するステージだととらえている。

 神戸製鋼のフーリーは、長所の突破力と守備範囲の広さに加え、大きな声でのコミュニケーションでも目立っていた。ケガのためシーズン後半を棒に振ったSBWも、同僚からは「リハビリを真剣に取り組んでいた。その姿勢でチームの士気が上がった。そういう意味でも影響はある」と評された。そう、日本に来る大物は、おおむね「好漢」で通っていた。

 相手としても、大物との対戦は利点が多い。列強の息遣いを皮膚感覚で知り、自らの技能向上に反映させられる点だ。

 以前サントリーの監督をしていたころにスミスを獲得、現在は日本代表で指揮を執るエディー・ジョーンズは、再三こう口にする。

「自分が相手選手だったら、ジョージ・スミスにスマッシュ(激突)します。ジャパンには、それができなければセレクトされない」

 仲間やライバルに良き手本がいることで、リーグ全体に求められる水準が上がっている。

1/2ページ

著者プロフィール

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとなり、主にラグビーに関するリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「スポルティーバ」「スポーツナビ」「ラグビーリパブリック」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント