沢村賞・攝津とダブる黄金ルーキー・東浜=鷹詞〜たかことば〜

田尻耕太郎

140キロ超えなくても2回無失点

黄金ルーキー東浜は派手さはないものの着実に結果を出している 【写真は共同】

 140キロを超えたボールはまだ一度も見ていない。2月24日のオープン戦(西武戦=宮崎アイビー)初登板でも最速は137キロどまり。しかし、予定の2回をわずか18球で投げきり、無失点投球でいきなりの初勝利。福岡ソフトバンク注目のルーキー、東浜巨が真骨頂を発揮しつつある。

 実戦向き。このキャンプで東浜を評するとき、必ず用いられた言葉だ。ブルペンは正直迫力不足だった。王貞治球団会長も「東浜のブルペンは見ても面白くないよ(笑)」と報道陣に冗談を飛ばすほどだ。

 球速だけでなく投球フォームにも派手さはない。だが、よく見ると、下半身が安定しており傾斜も上手く使っている。また、フォームの中に絶妙な“間(ま)”を作っている。コントロールも繊細でいつもベースぎりぎりを突く。
「打者の間をずらすのは、自分の中では無意識にやっています」
 そう言いながらも、投げる時に打者のどのような部分を見て意識するのか、という質問には「教えられないですね(笑)」とはぐらかした。新人ながら、したたかである。コントロールは「ベースの前の角をかすめるイメージ」。ブルペンではボール1個分を外したボール球を意図的に投げていた。自分の特徴を把握し、そのために何をやるべきかを知っている。並のルーキーは自身のアピールのためにとにかく必死に投げ込むものだが、やはりモノが違う。

 東浜を見ていると、4年前のキャンプを思い出す。ある投手が「あいつ、新しく入ったバッピ(バッティングピッチャー)か?」と笑っていた。彼の視線の先で投げていたのは、当時ルーキーだった攝津正だった。確かに球は遅いしフォームの迫力もない。フリー打撃で打撃投手を務めれば、バッターは気持ちよく弾き返した。投手コーチを務めていた斉藤学も「こりゃ、相当厳しいかもな」と感じていたという。しかし、オープン戦が始まるとまるで別人だった。シーズンでは中継ぎの柱として70試合に登板して最優秀中継ぎ賞と新人王を獲得。そして、昨年は先発で17勝をマークし、投手最高の栄誉とされる沢村賞まで獲得してみせたのだ。
 そういえば、王球団会長も「東浜のブルペンは――」と話した時、「攝津もな」と付け加えていた。

「実戦向き」の本領を発揮

 24日のオープン戦。思わず唸ったのは2イニング目のピッチングだった。1死から西武の強打者、栗山巧はカウント1ボール2ストライクから外角いっぱいの直球で見逃し三振。続く新外国人のスピリーに対しては前日のブルペンで試投したカットボールで追い込むと、次の内角直球でセカンドゴロ。球速は129キロだったが、完全に詰まらせた。

「初登板は朝から楽しみにしていたので、まずは投げられたことが良かったです。ただ、結果だけを見れば上出来かもしれないが、大事なところで甘く入った場面もあった。栗山さんへの初球のスライダーも甘かった。ファウルにはなったが、プロは見逃してくれないと感じました」
 本人は反省の弁も、20日と21日に計319球の投げ込みを行ったばかり。キャンプ最終クールも体を追い込み「アピールのためにここに調整することはしない」と語っていた。今後シーズン開幕に向けて体調を整えていけば、もう数段レベルアップした投球を見せてくれそうな期待感を抱かせた。

先発候補多数…ローテ確保は至難

「1年目からが勝負。目標は新人王です」
 そのためには開幕ローテ入りはもちろん、一年間を通して守り抜く必要がある。解説者やメディアの反応では「今ルーキーの中で最も即戦力」「2ケタ勝利も可能」など高評価の言葉が並ぶ。しかし、今季のソフトバンクの先発陣に割って入ることはできるのか!?

 沢村賞・攝津が軸になるのはほぼ決まり。WBC日本代表の大隣憲司が「左のエース」だ。昨季24試合に先発して8勝を挙げた山田大樹は出遅れているがローテ有力な1人。こちらも昨季8勝で高卒新人離れの活躍を見せた武田翔太への期待も高い。FAで加入した寺原隼人に、メジャー通算108勝の実績を誇るパディーヤもいる。

 あれ? ここで先発枠の6人が埋まってしまった。この他に、昨年4月に涙の復活を遂げた新垣渚や、昨季は故障に泣いたが実績十分の帆足和幸、メジャー移籍へ並々ならぬ決意を見せる陽耀勲、昨季ウエスタンのタイトルホルダーの二保旭(最多勝、最高勝率)と千賀滉大(最優秀防御率)と次々と名前が挙がる。

「(開幕ローテは)まだ決めてかねているよ…」とは秋山幸二監督。3月29日のシーズン開幕まで、登板機会は4回程度。黄金ルーキーといえども首脳陣に結果を示さなければ、夢成就は早々に難しくなってしまう。
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著者プロフィール

 1978年8月18日生まれ。熊本県出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。2002年卒業と同時に、オフィシャル球団誌『月刊ホークス』の編集記者に。2004年8月独立。その後もホークスを中心に九州・福岡を拠点に活動し、『週刊ベースボール』(ベースボールマガジン社)『週刊現代』(講談社)『スポルティーバ』(集英社)などのメディア媒体に寄稿するほか、福岡ソフトバンクホークス・オフィシャルメディアともライター契約している。2011年に川崎宗則選手のホークス時代の軌跡をつづった『チェ スト〜Kawasaki Style Best』を出版。また、毎年1月には多くのプロ野球選手、ソフトボールの上野由岐子投手、格闘家、ゴルファーらが参加する自主トレのサポートをライフワークで行っている。

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