アイスホッケー女子、五輪決めた長期戦略=“スマイルジャパン”夢への第一歩

高野祐太

過去3回の悪夢を乗り越えて

4大会ぶりの五輪出場を決めたアイスホッケー女子日本代表。苦節15年、ついに悲願を達成した。その背景には、若手強化の長期戦略がある 【写真は共同】

 アイスホッケー女子日本代表が、正式競技となった1998年の長野大会以来4大会ぶりとなる五輪出場を決めた。2月7日から10日までスロバキアのポプラトで行われていたソチ五輪最終予選。最終戦のデンマーク戦を5−0でモノにし、初めて自力での五輪切符を引き寄せた。ソチ五輪の出場権獲得は全競技を通じて日本勢一番乗りとなった。

 長野五輪以降、女子日本代表は2002年ソルトレーク、06年トリノ、10年バンクーバーのいずれでも、最終予選の最終戦であと1勝か、あと1点を獲得すれば出場を決められるというところまでいきながら、目前で大きな魚を逃し続けてきた。
 だから、世界ランク11位の日本が初戦の同10位ノルウェーに0−3の劣勢から逆転勝ちし、続く同7位のスロバキア戦でゲームウイニングショット(サッカーのPK戦に相当)に持ち込んで負けたとはいえ、勝ち点1を手に入れたときには、関係者の多くが「過去3回と同じ悪夢が訪れませんように」と祈ったに違いない。

 しかし、ふたを開けてみれば、そんな心配も吹き飛ぶ選手たちの活躍ぶりだった。運動量でデンマークを圧倒し、的確なサポートのある攻撃で久保英恵らが二の矢、三の矢……五の矢まで打ち込んだ。この日、21歳になったばかりの大沢ちほ主将や青木亜優子と浮田留衣の高校1年コンビなどの若い世代も良い動きでチームにリズムを与えた。

 選手と飯塚祐司監督の言動には手応えが見て取れた。ノルウェー戦で0−3のピンチに陥ったとき、大沢主将は「自分たちの力を信じることができた」と臆することのないプレーを貫いた。飯塚監督も最終戦直後のテレビインタビューで「メダルを取るためにこの1年間練習していく」と宣言した。多少のリップサービスはあったにせよ、根拠となる自信があればこそ、カメラの前で出た台詞(せりふ)であったはずだ。

転機はバンクーバーを目指すところから

 初めて予選をくぐり抜けた快挙。その原動力は、長野五輪から続いた15年に及ぶ苦節の道のりにこそある。厚い壁に跳ね返されるたびに選手たちの五輪への思いは募り、それは次世代へ受け継がれた。指導者も経験に学び、より良きプレーヤーの育成にいそしんだ。

 転機はバンクーバー五輪を目指す飯塚体制のスタートで訪れた。掲げたのは、体格差のある外国勢にスピードで対抗するチーム作りの徹底だった。スピードは持ち味でもあったし、代表クラスでさえ一般女性と差がないほどの体格では、スピードで突破口を探るしかないとも言えた。
 このとき、かなりのチーム力アップを果たしたが、社会人選手が仕事を抱えながら活動せざるを得ない環境下で、十分な準備をするだけの代表合宿は組むことができなかった。思い描く強化策は道半ばだった。

 だが、この経験を踏まえた今回は、強化体制を一歩前進させることができた。今季に限れば昨年5月から毎月1回の合宿を組むことができ、「スピードだけでは限界があり、それを補うためにパワーと得点力のアップにも重点を置いた」(飯塚監督)成果が表れてきた。例えば、昨年9月のカナダ遠征では本場の中堅チームと互角の戦いをし、昨年11月以降はフランス、中国、チェコとの国際試合に7連勝した。

ソチ飛び越え平昌を視野に若手育成

 ソチ五輪切符獲得の背景には、若手の育成と登用の成果があることも見逃せない。まずバンクーバー五輪を逃した直後からU−18の強化合宿に着手している。結果はすぐに表れ、1期生の大沢らがU−18世界選手権の2部で優勝して1部に昇格。いったんは2部に戻ったが、今年1月には青木、浮田らのチームが再び2部で優勝し、1部復帰を果たした。
 そうして育ってきた彼女たちを次はフル代表に招集した。青木と浮田のほか、高校3年の床亜矢可などが加わり、バンクーバー五輪挑戦時のメンバーから3分の2が入れ替わった。平均年齢は22歳と若返った。

 これは難しい選択でもあった。例えば浮田は、クラブチームに戻ればDFとはいえ4番目のポイントゲッターだという。現状だけを見ればもっと実力上位のベテランを使うべきとの意見が出ても不思議ではなく、発展途上だからこそ大きく育つと将来性に賭けた判断には、幾ばくかの勇気を要したはずだ。
 だが、その判断は的中した。主将を任せた大沢の仕事ぶりもしかり。青木らの若手が躍動する姿は、可能性の広がりを思わせるものだった。

 若手への投資という戦略は、すなわち長期戦略でもある。ターゲットは、ソチを一気に飛び越えて18年韓国・平昌五輪が視野に入る。そのとき大沢は脂の乗り切った26歳。経験も積んだ21歳の青木らがその脇を固めるというわけだ。

 ソチ五輪で「メダル」という大目標を掲げるならば、その手前には「4カ国による下位リーグで2位以内に入って決勝トーナメント進出」という第一段階の目標がある。これはこの1年の取り組み次第で可能性を十分に上げられるはずであり、そうなったらかなり面白いことになる。

「決勝トーナメント進出」ということは6位以内であり、その後の世界選手権を通じても世界ランク6位以内をキープできる状況に持ち込めば、予選なしでの平昌五輪出場権が獲得できるからだ。一発五輪出場となれば、もう完全に強豪国の仲間入りである。そのとき中心的な働きをしてくれるのが、早くから代表でもまれてきた現在の若手になるのだろう。

 サッカー女子の“なでしこジャパン”のような“スマイルジャパン”(選手たちが希望する愛称)の躍進が見てみたい。ちょっと気は早いけれども、アイスホッケー女子日本代表が今回成し遂げたことが、そんな夢へと続く第一歩であることは間違いない。

<了>
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著者プロフィール

1969年北海道生まれ。業界紙記者などを経てフリーライター。ノンジャンルのテーマに当たっている。スポーツでは陸上競技やテニスなど一般スポーツを中心に取材し、五輪は北京大会から。著書に、『カーリングガールズ―2010年バンクーバーへ、新生チーム青森の第一歩―』(エムジーコーポレーション)、『〈10秒00の壁〉を破れ!陸上男子100m 若きアスリートたちの挑戦(世の中への扉)』(講談社)。

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