香川が痛感する「新たな自分」の必要性=こだわりに変化を与えたプレミア移籍
疑念を抱える中で突きつけられた現実
「新たな自分」を作るため、新境地の開拓に意欲を燃やす香川。代表では乾のプレーに刺激を受けた 【Photo:Getty Images】
「イタリアに香川によく似た特徴を持った選手がいる。左から中に入って良さを発揮するその選手は(アレッサンドロ・)デルピエロだ」とアジアカップの最中に言われ、香川本人も一度は納得したつもりだったのだろう。だが、ドルトムントの2シーズンでブンデスリーガ21得点をマークし、評価を上げれば上げるほど、どこかに疑念は残る。ブラジルW杯予選でわずか2点しか奪えていないことも、左サイドでプレーする自分自身の不完全燃焼感に拍車をかけていたのかもしれない。
だが、昨夏のマンU移籍後、多彩な役割をこなさなければピッチに立てない現実の厳しさを突きつけられた。実際、今季のマンU攻撃陣で不動の地位を確立しているのは、プレミアリーグで得点ランキングトップに立つロビン・ファン・ペルシーと、絶対的エースのウェイン・ルーニーくらい。香川よりクラブで実績のあるナニやハビエル・エルナンデスでさえも出たり出なかったりだ。
この苦境が香川のポジション観に微妙な変化をもたらし、新たな闘志を抱かせたのは間違いない。ラトビア戦のために帰国した直後、「日々の練習からゴールするしかない。それを取れていたらもっと信頼されていたと思う。良いプレーをしていても、調子が良くても、結果を出さないと評価されない。アシストも結果だけど、ゴールは何よりもインパクトがある」とかつてないほどの得点へのどん欲さを強く押し出したのも、代表での活躍をクラブでの定位置確保につなげたいという思いからに違いなかった。
「乾の方がいい形を持っている」
けれども、本人は試合後「トップ下は慣れがあるけど、左でやっていくイメージは全然できてない」と自らに思い切りダメ出しをした。それはセレッソ大阪時代のチームメート・乾貴士の目覚ましい仕事ぶりを目の当たりにしたことが大きい。後半17分から出場した乾は、スピードに乗った突破や前線に入り込む鋭い動きを連発。チーム最多のシュート7本を打った。トップ下に移動した香川とのワンツーからゴール前に抜けて放った左足シュートは4点目につながっていてもおかしくなかった。
「フランクフルトで試合に出てる乾の方がいい形を持っている。あいつのプレーはいい刺激になった。自分は代表で左を任されているわけだし、形をもっと極めないといけない。僕はサイドに張っているだけのプレーヤーでもないし、中に入り込んでしまってもダメ。そこの駆け引きや距離感はトップレベルで試合をやりながら得られる。もっとゲームをやらないといけないと思います」と香川は神妙な面持ちでこう言った。
世界最高峰クラブの高い壁への挑戦
外からのシュートというこれまでにない武器を磨くことは、その一助になりそうだ。香川という選手はペナルティーエリア内に侵入し、相手と駆け引きしながらゴールを奪う能力がず抜けて高い。ドルトムント時代もその形からゴールを量産してきた。しかし、それだけでは足りないと本人も認めている。
「自分のスタイル上、中に入り込んでかわしてシュートというイメージが強いんで、なかなか外からのシュートという意識を持てない。でもペナルティーエリアの外からでも前を向いてシュートできる選手にならないといけない。意識して今後やっていきたいです」と彼は自らの課題を口にした。遠目からも決められるようになれば、トップ下だけでなく、サイドに入っても十分結果は残せる。そうなれば、マンチェスターでも日本代表でも鬼に金棒だ。賢くて努力家の香川なら、幅のあるプレーヤーになることは決して不可能ではないはずだ。
ラトビア戦では最も重視していたゴールを挙げられず、悔しさをのぞかせたが、得点に近づいてきているという実感はあるという。
「コンディションは上がってきてるし、いいイメージは常に持ててるから、あと一歩のところで決めるか決めないか。そこの精度だと思ってるし、1本取れたらいける」と香川は力強くコメントし、イングランドへと戻っていった。世界最高峰クラブでの挑戦はかつてない困難が伴うが、直面する高い壁を打ち破った時、彼は日本代表に一味違ったエッセンスをもたらしてくれる。ザックジャパンのレベルを大きく引き上げるためにも、香川真司のさならる進化と成功と強く望みたい。
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