フォルトゥナで期待される大前の役割=クラブSDが語った日本人選手の魅力

ピッチ上で対面は果たせず

日本人対決が期待された大前(右)だったが、清水時代の先輩である岡崎(中央)とはピッチ上での対面を果たせなかった 【写真:アフロ】

 ドイツでデュッセルフドルフ以上に多くの日本人が住んでいる場所はないという。それにもかかわらず日いづる国から再び選手を獲得するため、フォルトゥナ・デュッセルドルフはこの1月まで待たねばならなかった。アウクスブルクとメンヘングラッドバッハ相手の短い出場時間は派手なものではなかったものの、フォルトゥナでスポーツディレクター(SD)を務めるヴォルフ・ヴェルナーは、この冬に清水エスパルスからやって来た新戦力について、どんなプランを持っているのか説明してくれた。

 先週土曜日にエスプリ・アレーナ(デュッセルドルフのホームスタジアム)に集った日本人ファンは、大前元紀がシュツットガルト戦にて驚きの早さで先発イレブン入りすることを期待していただろうが、その思いは落胆に変わった。この23歳の若者はドイツに移籍してから初めて、ブンデスリーガの試合に起用されないままで終わったのだ。

 酒井高徳(先発出場)と岡崎慎司(途中出場)という2人の代表選手との顔合わせは、ピッチ上ではなくベンチ裏でのみ実現することとなった。特に同じように2年前の冬にブンデスリーガに渡り、清水エスパルスで3年間ともにプレーした先輩で、香川真司と同じくトーマス・クロートを代理人とする岡崎の成長をピッチ上で感じたかったことだろう。岡崎は短い期間でドイツに適応を果たし、トップリーグでブレイクを祝うこととなった。この試合では71分まで出場を待たねばならなかったものの、岡崎は今日もシュツットガルトのファーストチームに名を連ね続けている。

「日本人選手がいないのは、フォルトゥナだけですよ」

 大前はホームでの3−1の勝利をベンチから見守るだけだったが、この昇格クラブのSDは、スポーツナビのためのインタビューの中で、大前への期待を語った。

「デュッセルドルフの街では、同胞から非常に歓迎されているね」。ライン地方に位置するこの街には、8000人以上の日本人が暮らす。

「当然、日本人ジャーナリストからの取材申請は増えたよ。たくさんの記者が、メンヘングラッドバッハとのアウエーゲームにまで足を運んだ。彼のホームデビューには、合計8人の記者と2人のカメラマンがやって来た。今回の試合でも、10人もの記者が試合後も彼のことを待ち構えていたよ」
 
 試合後のスタジアムのミックスゾーン(取材エリア)と、ピッチ上に日本人を目にすることができるのは、何もこのクラブだけではない。現在では日本人プロ選手が、ドイツサッカーの最高峰の舞台で10人、ブンデスリーガ2部では2人が戦う。だがドイツで日本人人口密度最大の街は、伝統あるクラブのユニホームを日本人が身にまとうまで、随分長く待たねばならなかった。「もちろん、日本人選手を薦めてくる代理人はいたさ」とヴェルナーは明かす。「彼らは言うんだ。『日本人選手がいないのは、フォルトゥナだけですよ』とね。だがわれわれは、高い移籍金を伴う取引の前には、財政的に適切な準備をする必要があるんだ」。ブンデスリーガ2部では、そうはいかなかったというわけだ。

1部のユニホームに初めて袖を通す日本人

 今季からフォルトゥナは国内のトップリーグへ戻ってきたが、昇格が決まった後でさえも道のりは険しかった。1895年に設立されたクラブが再びブンデスリーガで戦えるのかどうか、数週間も不透明な状況が続いたのである。ヘルタ・ベルリンとの昇格を懸けたプレーオフの第2レグでファンがピッチに乱入したために、ドイツサッカー協会はこのノルベルト・マイアー監督率いるチームの昇格について、話し合いを続けたのだ。だが話はハッピーエンドで終わり、ノルトライン=ヴェストファーレン州の州都における情熱的な日本人コミュニティーも喜びを分かち合うこととなった。今年1月までかかったとはいえ、フォルトゥナがクラブ史上4人目の日本人選手を獲得したからだ。大前の移籍までにも、結城耕造(2009−10)、松本三四郎(2003−05)、それに朝枝健(2007−08)が、1933年にドイツの頂天に立ったクラブのユニホームに袖を通した。だが、このクラブで1部リーグを戦う日本人選手は、大前が初めてである。

 大前の先達たちが、この都市の輪郭を作ってきた。デュッセルドルフ市内でスマートフォンのナビを使ったなら、「リトル・トーキョー」と呼ばれる地域を目にすることだろう。ここには、極東の国の暮らしが凝縮されている。日本の店や銀行、代理店、医者、さらには仏教のお寺までが景色を彩る。名簿に日本語が記されている学校もある。大前はそういった様子を、日本の高校チームの一員としてトレーニングキャンプでやって来たときに目にしているはずだ。こうした点は、彼の妻がこの国になじむ手助けにもなるだろう。昨年12月には、彼女は3人目の子供を出産した。髪を茶色に染めた選手は、スペインはマルベージャでのトレーニングキャンプ中に、「家族はおそらく6月に来ます。子供はまだ生まれたばかりで、すぐには来られないんです」と話した。

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著者プロフィール

フランソワ・デュシャト 1986年生まれ。世界最大級のサッカーサイト「Goal.com」でドイツ語版の編集長を務め、13年からドイツで有数の発行部数を誇る「WAZ」紙のサイト(http://www.derwesten.de/)でドイツ西部のサッカークラブを担当する。過去には音楽の取材もしていた。ツイッターアカウントは@Duchateau。自身のサイトはwww.francoisduchateau.net。 ダビド・ニーンハウス 1978年生まれ。20年以上にわたり、ルール地方のサッカークラブに焦点を当て、ブンデスリーガの取材を続ける。09年からは「WAZ」紙のサイト(http://www.derwesten.de/)で記者を務める。ツイッターアカウントは@ruhrpoet。自身のサイトはwww.david-nienhaus.de。

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