己のプライドのために戦う相撲版『ロッキー』=「帰ってきたシネマ地獄拳」

しべ超二

ダイナミックに、あまりにもダイナミックに描いた相撲映画

「隠岐古典相撲」を完全再現したダイナミックな相撲映画「渾身」について迫る 【(C)2012「渾身」製作委員会】

 千秋楽へ向け盛り上がりを見せる初場所、そして大きなニュースとなった昭和の国民的ヒーロー大鵬の逝去――深く日本人の生活に根付き、今も様々な話題を提供してくれる相撲。そんな相撲をダイナミックに、あまりにもダイナミックに描いた映画『渾身』が現在公開中。画面いっぱいに広がる広大な日本海、隠岐諸島の大自然に負けない迫力で、相撲の魅力を映し出している。

 相撲といっても本作で描かれるのは初場所開催中の大相撲ではなく、隠岐諸島に伝わる「隠岐古典相撲」。
 相撲が盛んな隠岐では、神社の遷宮・ダムの完成・校舎や病院の新築といった祝い事の際、それを祝しての相撲大会が行われる。中でも、出雲大社に次ぐ格式を誇る水若酢(みずわかす)神社の境内で、社殿屋根の葺き替え工事完成を祝って行う大会は「遷宮相撲大会」と呼ばれ、20年に一度行われる大イベントだ。
「隠岐古典相撲」は徹夜で行われ、実施される取り組みは大人から子どもまで300番以上というから超ロングラン大会。同じ力士が2番続けて勝負を行い、先に勝った方が2番目は勝ちを譲って引き分けとすることで遺恨を残さない。そのため「人情相撲」とも呼ばれている。

 本作ではこの「隠岐古典相撲」を完全再現。取り組みは大会を開催する地元である「座元」と、対戦する近隣地域である「寄方」に分かれて行われるが、地域一体となり会場へ向かう練り歩きから土俵入り、そして対戦、その後の打ち上げ、凱旋と、ストーリーを追って展開され、さながら大会に居合わせたような気分になる。さらにそこにとどまらず、実際に隠岐諸島へ足を運び、本物の「隠岐古典相撲」を見たくなってしまうこと請け合いだ。

迫力の取り組みシーン、2トン以上使用された塩

「遷宮相撲大会」で使われる横から見ると鏡もちのようなおめでたい形をしている「三重(さんまい)土俵」 【(C)2012「渾身」製作委員会】

 作品で中心となるのはもちろん取り組みのシーンだが、これがスゴいことになっている。
「遷宮相撲大会」で使われるのは、通常の土俵にさらに二段の俵を敷いて作った「三重(さんまい)土俵」という独特のもの。横から見ると鏡もちのようなおめでたい形をしており、これは土俵そのものが神への奉納と考えられているからなのだとか。
 力士を応援する人たちは激励の意を込め大量の塩を土俵に投げ込む。その多さ、大量ぶりがもう半端ない。「いくら映画だからってやり過ぎだよ!」と思わせるが、隠岐の観光情報サイトに掲載されている写真を見ても、やはりやり過ぎぐらいの塩が力士に浴びせられているので、どうやら過剰演出ではないらしい。観光情報サイトによれば、「古典相撲」では1トン近い塩が消費されるとのことだが、本作では2トン以上使用されたというから、その撒かれぶりを是非ご確認頂きたい。

あなたの相撲観を変える一本になるかも!?

「まさか、相撲で泣くなんて」とのキャッチコピーが謳われた観客の相撲観を変えるかもしれない珠玉の相撲映画だ 【(C)2012「渾身」製作委員会】

 物語は親が決めた婚約者との縁談を破って島を出た青年が再び島へ戻り、島で生きる決意をし、島の宝である相撲に取り組む姿を描く。周囲の偏見・冷たい視線に耐え、もくもくと稽古に励むことで最高位に選ばれた青年は、自分自身だけでなく地域の誇りと名誉を背負って「遷宮相撲大会」に挑む。
 相手に勝つより島で生きる自分を認めてもらうため、己のプライドを懸けた戦い。それは「最後のゴングが鳴るまで立っていられたら、俺がただのゴロツキじゃないことを証明できる」と戦った『ロッキー』に通ずるもので、クライマックスの熱気も『ロッキー4』や『オーバー・ザ・トップ』と重なって見えてきて、オールドファンはハーツ・オン・ファイア間違いなしだ。

 たびたび織り込まれる隠岐諸島の実景が実に力強く、“塩は場を清め、四股は地中の邪気を払うために踏む”といった相撲に関するうんちくも学べてしまう本作。キャッチコピーに「まさか、相撲で泣くなんて」と謳われているが、あなたの相撲観を変える一本となるかもしれない。

映画『渾身』は1月12日(土)より全国公開中
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著者プロフィール

映画ライター。ペンネームは『シベリア超特急2』に由来し、生前マイク水野監督に「どんどんやってください」と認可されたため一応公認。松濤館空手8級。

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