選手権に見る日本とオランダの育成の違い=当然過ぎて気付かない高校サッカーの利点

中田徹

オランダが誇るユース育成システム

育成において定評のあるオランダは、このアヤックスを始めとして、自チームで選手を育てている 【Getty Images】

 オランダは狭い国だ。土地は少ない。だから狭い家が多い。しかし、サッカー大国だ。サッカーのためなら贅沢(ぜいたく)に土地を使う。サッカーの環境は世界一と言っても良いだろう。

 フェーネンダールという小さな街にも多くのアマチュアクラブがあるが、中でもDOVOとGVVVはオランダでも有名なクラブだ。彼らのダービーマッチは白熱する。そんな両クラブはたった5メートルほどの道を隔てて、それぞれ立派なクラブハウスを持ち、メーンスタジアム、練習ピッチを複数、駐車場などを完備している。オランダにはサッカークラブが施設を共有するという概念がないのだ。

 オランダのサッカー界のエリートは、もちろんプロクラブだ。アマチュアクラブのユース育成システムで育った優秀なタレントは、プロのクラブに引き抜かれ、英才教育を受ける。

 オランダの場合、エリートクラブのアヤックスですら年間予算は60億円程度。とても世界のスターを買う経済的な余裕はない。だからスターを育てる自家栽培システムをとっている。アヤックスのユース育成システムは世界的に有名だが、近年はフェイエノールトの育成も成功を収めている。
 
 オランダに来た当初、このサッカー環境に圧倒された。しかし、毎年、帰省を兼ねて高校サッカーを取材していると、実は、日本のこの高校サッカーというシステムもまんざら悪いものではないと気付き始めた。

 オランダのプロの育成システムでは、クラブで補習を受けられるという。それをオランダ人は誇らしげに語り、こちらも最初は「すごいな」と聞いていた。しかし、よくよく考えてみると、それは高校サッカーにとって特別なことではない。高校サッカーは、授業とサッカーの練習がひとつの敷地内で完結するシステムなのだ。これは日本人にとっては常識だ。しかし、あまりに当たり前すぎるため、そこにアドバンテージがあることに気付かない。

勉強と練習が学校の敷地内で完結する日本

 オランダのクラブの育成年代では、基本的に近くに住む子どもしか獲得しない。しかしトップクラブの場合、遠くに住む子どもも練習に通っている。彼らにとって地元の学校で授業を受け、それから遠くのクラブに通って、それから自宅に戻るという1日のサイクルは過酷だ。

 日本の高校生の中にも遠距離の通学を毎日している子もいるだろう。それでも勉強から練習という流れが学校の敷地内で完結することによって、自ずと勉強とサッカーの両立がしやすいシステムになっている。

 小さな子どもたちが外で遊ばなくなったということは、オランダでも日本でも問題になっている。昔だったら遊びの中で身に付けていた体のコーディネーションが、今の子どもたちには欠けている。サッカーの練習だけだと、どうしても体の動きに偏りが生まれるので、アヤックスでは柔道や綱上りといったエクササイズを通じて不足分を補おうとしている。

 こうしたアヤックスのアイデアはもちろん素晴らしい。しかし、日本の学校には体育という授業がある。これは高校サッカーというより、日本の学校教育の優れた点だが、高校生は体育という授業を受けることによって球技、陸上、水泳、柔道、剣道といった多岐に渡るエクササイズを学んでいる。日本人が、オランダなど欧州の育成を見て「すごい」と感心する点は、実はすでに日本でも無意識のうちに取り入れていることでもあるのだ。

 今回の高校選手権には4175校が予選に参加した。そのことは、日本には少なくとも4175ものU−18世代のサッカーチームがあるということだ。人工芝の素晴らしいピッチを持つ学校もあれば、京都橘(京都)のように小さなピッチでも結果を残している学校もある。いずれにしても、土地に限りがある日本では、学校の校庭は高校サッカーにおいて貴重な練習スペースとなる。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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