ポゼッション志向から生まれた“矛と盾”=第91回全国高校サッカー選手権 総括

安藤隆人

最後まで先が読めない展開に

波乱の大会を制した鵬翔。セカンドボールを拾ってからのカウンターというスタイルがうまくはまった 【スポーツナビ】

 鵬翔(宮崎)の初優勝で幕を閉じた第91回全国高校サッカー選手権大会。ここ最近、毎年のように「波乱の大会」と言われているが、今大会もその流れに沿う形となった。

 高円宮杯U−18プレミアリーグやインターハイで好結果を残した流通経済大柏(千葉)、武南(埼玉)、大阪桐蔭(大阪)など、有力校が地区予選の段階で敗れ、本大会でも大津(熊本)、野洲(滋賀)、四日市中央工(三重)など優勝候補が初戦敗退(四中工はシードのため2回戦敗退)。さらに野洲との強豪対決を制した青森山田(青森)は3回戦で姿を消し、四中工や作陽(岡山)を撃破し、優勝候補筆頭となっていた桐光学園(神奈川)も、準決勝で京都橘(京都)に0−3で敗れた。最後まで先が読めない展開となった。

 だが、これを単純に「波乱」という言葉で片づけてはいけないし、「レベル低下」という言葉で片づけてもいけない。

 確かに、優秀なタレントの多くがJクラブユースに流れているのは周知の事実。しかし、一方でその中でもユース昇格やスカウトを断わったり、ジュニアユースからユースに上がれなかったものの、それ相応の実力を持った選手が、各高校に進学しているのも事実だ。かつての市立船橋(千葉)や国見(長崎)のような、レギュラーの大半がJリーガーになれるようなマンモスチームはなくなったが、こうした選手たちが、強豪校に越境入学するだけでなく、それぞれの地域の高校に進むようになったことが大きい。

志向するサッカーに変化が起こっている

 戦力分散が図れた1つの理由に、指導者の創意工夫が挙げられる。近年、高校サッカーでは指導者が明確なチームの方向性を打ち出し、思うようにタレントがそろわない中でも、組織で強豪と渡り合えるように仕立てていく動きがより加速している。就任年月が20年や30年近いベテラン指揮官だけでなく、20代後半から30代にかけての青年監督も、それぞれが創意工夫したサッカーを趣向している。こうしたノウハウがサッカーの裾野を全国各地に拡大させている。

 その中で、バルセロナのサッカーに大きな影響を受け、日本全体がポゼッション志向となりつつあった。ボールを大事にし、1人ひとりが適切なポジションや、数的優位を作る動きをして、ボールを奪われないように繋いでいく。それはフィジカルに劣る日本人が、世界で戦うために必要なメソッドとして、Jクラブユース、高校に関わらず、育成年代の一つのトレンドとなっている。

 しかし、近年ここにある1つの変化が起こっている。それはポゼッションサッカーに対して、「しっかり守ってカウンター」というサッカーを志向するチームが増えてきたことだ。どのチームもポゼッションからの攻撃サッカーを志向すれば、当然その質に差が出ると、試合に勝てなくなる。そうなると、その“矛”に対抗する“盾”が必要になってくる。どんなにつながれても、しっかりとブロックを作ってエリアに入らせない。ボールを奪ったら素早く前線につないで、相手陣形が整う前にフィニッシュまで手数をかけずに持っていく。これが組織力や総合力で上回るチームに対し、有効策となる。

ポゼッションもできるが、あえてカウンターを選択する

 もともとカウンターサッカーは、日本においてそれほど異質なものではなかった。徹底したキック&ラッシュも定番の1つであった。しかし、空前のバルセロナブームで、ポゼッション志向が加速的に進み、徐々にロングボールやカウンターが“化石化”してきた。だが、そのポゼッションサッカーの対抗策として、再びカウンターサッカーを志向するチームが増え始めた。

 ただ、これは単なる原点回帰ではない。「ポゼッションはできるけど、あえてカウンターサッカーを掲げている」というチームが出てきたことで、よりカウンターの質が上がっているのだ。ポゼッションに対し、ラインコントロールをしながら、ギャップを作らないように選手たちが連動し、プレスバックや2ラインのブロックを形成する。ボールを奪ったら、ボランチに預けて展開をするか、一気に相手の両サイドバックの裏のスペースに蹴りだす。そして前線の選手がボールを受けたら、2〜3人のグループで素早くパス交換をしながら、一気にゴールに迫っていく。これらは戦術的に洗練されていないとできないし、個人能力が低くてはできない芸当だ。

1/2ページ

著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント