初戴冠狙う鵬翔と京都橘の2人のキーマン=決勝の地・国立で実現する才能の交錯

安藤隆人

15分限定の出場で相手に脅威を与える中濱

けがのため出場時間が限定されている中濱(右)。未だ無得点のエースは、決勝でゴールすることはできるのか 【写真は共同】

 選手権という大舞台で、伸び伸びとその才を振るう小屋松に対し、中濱は自分が持つそのポテンシャルを発揮しきれていない。前述したように、中濱は選手権県予選決勝で相手をかわした際の着地で、左ひざ半月板を裂傷。途中交代を余儀なくされた。その後、12月7日に手術を施した。その左ひざの状態は万全ではなく、今大会は出場時間限定でのプレーとなっている。

「ドリブルができないのがすごく悔しい。自分の持ち味はドリブルなので、それをしたいけどできない。本当の自分を見せることができないもどかしさはあります」

 今大会、快進撃を続けるチームの中で、悩み苦しむ姿があった。しかし、残り15分で出てくる中濱の存在は、相手にとって脅威以外の何物でもない。なぜならば、中濱の武器はスピードであり、ドリブルはできなくても、積極果敢に裏を狙ってくる姿勢は、終盤でDFラインを上げたい相手にとっては、厄介極まりないからだ。

「ドリブルができない分、スピードで裏のスペースを突いていきたいと思っています。現に、前より裏に抜け出す回数が増えましたし、プレーの幅は広がっていると思います」

 自分の現状を受け入れ、できる限りのプレーに徹する。ポジションもウィングからFWになったことで、よりゴールが近くなり、DFラインとの駆け引きをする回数も増えた。中濱の存在は、役割自体は変わったものの、残り時間15分になった際の相手チームにとって脅威となった。

 さらに「周りの仲間が成長してくれたのも大きいです。今は東(聖二)や川崎(皓章)、小原(裕哉)からすごくいいパスがくる。前までは自分が中盤まで落ちて、ボールを受けてからドリブルを仕掛ける状態だったけど、今は川崎や小原から『落ちてくるな!!』と言われるようになりました(笑)」と仲間の成長を実感。快進撃を続けていく中で、チーム全体が成長し、終盤での中濱の裏への飛び出しはさらに生きた。

エースの誇りを胸に臨む国立のピッチ

「国立ははっきり言って通過点。個人として、上に行きたい気持ちが強いからこそ、通過点に過ぎません」
 まっすぐ前を見つめ、こう言い放った小屋松知哉。

「鵬翔のエースナンバーは13番。その番号を1年生の時から背負わせてもらっている責任がある。負ければ自分のせいだし、それだけ13番は活躍しないといけない。僕は今大会1点も取れていないし、今はこの番号の責任を果たしきれていない。ただ、仲間たちがつないでくれた決勝のチャンスなので、絶対に結果を残して、みんなに恩返しがしたいです」

 エースとしての責務を果たせていない自分を責めながらも、仲間に感謝をして、決意を新たにする中濱健太。

 それぞれ状況は違えど、エースとしての誇りを胸に戦うことは、小屋松も中濱も同じ。彼らはファイナルの舞台でどのような輝きを見せてくれるのだろうか。そして、2人が背負う境遇と、才能が交錯する決勝の地・国立競技場でどんなドラマが待っているのだろうか。

<了>

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著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

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