初戴冠狙う鵬翔と京都橘の2人のキーマン=決勝の地・国立で実現する才能の交錯
決勝で相まみえる両校のエース
得点ランクトップに立つ小屋松。豊富かつ質の高いイメージで自慢の快足を生かす 【写真は共同】
決勝で注目の2人は、どちらとも万全な状態とは言えない。今大会、スピードに乗ったドリブルと、抜群の裏への飛び出しでゴールを量産する小屋松だが、初戦で左ふくらはぎを負傷し、手負いの状況だ。また、中濱も県予選決勝で負傷し、今大会は15分限定の出場となっている。
けがに悩まされている2人のエースだが、決勝に懸ける思いは非常に強い。
「同時優勝だけは絶対に避けたかった。今の自分のコンディションで試合をするのは嫌だったので、延期開催が決まったことはうれしかった」(小屋松)
「多分、みんなはやりたかっただろうけど、僕はけがをしているので、正直、延期してよかったと思っています」(中濱)
1月14日の決勝戦当日。関東地方を襲った大雪の影響により、京都橘vs.鵬翔の一戦は、1月19日に延期が決まった。その直後の国立競技場のミックスゾーンで、2人のエースは一方は表情を一つも変えず、もう一方は笑顔でそう語った。
小屋松の能力を引き出す試合へのイメージ
「イメージは毎試合持っています。それは自分の得意とするプレーのイメージ、シュートのイメージ、ゲーム運びのイメージ……。そこに相手の情報を入れながら、試合前にイメージしています」
彼の性格は常に冷静沈着で、周りに流されない独自のスタイルを持っている。同学年のGK永井建成は、「あいつはすごくクールやし、勉強もできる。それに、みんなからかっこいいと言われるほどの男前やし……」と口にするほど。試合後のミックスゾーンで、大勢の記者に囲まれても淡々と、そしてしっかりと自分の中で考えながら、自分のペースで言葉を紡ぎだす。その姿を見ても彼がいかに感覚だけでなく、考えて知的なプレーをしていることが分かる。だからこそ、試合に臨む前に、イメージトレーニングを施し、その中で得た情報、イメージを持った状態でプレーをする。
これまでの彼の活躍は、単純に50メートル5秒8のスピードを発揮したからではない。「どこにギャップが生まれるか、そこにいかに入っていくか、どう仕掛けるか、どうやりきるかを考えている」という、豊富でかつ質の高いイメージがあるからこそ、小屋松はピッチ上で輝きを放つ。瞬時に次のプレーを予測し、相手よりも早く加速態勢に入っているからこそ、50メートルのタイムだけでは単純に測れないほどの、爆発的なスピードを生みだす。さらにボールを受けてからのイメージもできているからこそ、スピードを殺すことなく、そのままシュートに持ち込むことができる。
「国立競技場にはすぐに慣れた。やっぱり常にイメージを持って(試合に)入るので、すごくやりやすかった」
チーム初、自身の初の国立競技場での試合となった準決勝。相手は優勝候補筆頭の桐光学園(神奈川)。だが、国立の雰囲気に飲まれたのは桐光学園で、京都橘は落ち着いていた。その中でも小屋松はイメージを元にした抜群のポジショニングと、鋭い動き出し、そしてギャップでボールを受けてからの積極的な仕掛けで、桐光学園守備陣を大きく揺さぶった。前線で抜群の存在感を発揮した小屋松は、76分にはペナルティーエリア内のこぼれ球に瞬時に反応し、2点目をたたきこんだ。このゴールは彼のポジショニング、予測、反応すべてがスムーズだったからこそ、生まれたものであった。