UAE移籍の森本貴幸は復活できるのか=かつて将来を嘱望された男が挑む再起への道

神尾光臣

トップフォームからはほど遠く

失点の起点となってしまい、うつむく森本。今季は出場機会を得られず、トップフォームにはほど遠い状態だった 【Getty Images】

 1月10日、カターニアはFW森本貴幸のUAEリーグのアル・ナスルSC移籍を発表した。ちょうど6年前の1月にセリエA初ゴールを挙げ、一度はイングランド・プレミアリーグのクラブから大型オファーを提示されるほどに将来を嘱望された男は、イタリア国内でも、欧州の他国でも日本でもない場所から、再起へ向けて挑戦することになった。

 移籍はもはや不可避の状況だった。昨シーズンのノバラでの1年間は、ひざの手術や多発する筋肉系のトラブルに悩まされた。それまでも出場機会に恵まれず、心機一転を懸けて移籍したはずが裏腹の結果となってしまう。その後ノバラのセリエB降格に伴い古巣カターニアがパスを半分買い戻すも、彼は移籍を模索する。ただ、ギリギリまで待ったものの引き取り手は現れず、彼はカターニアへ残留することになった。しかしこれが、さらなる不振の連鎖を招いた。ゴンザロ・ベルヘッシオがセンターFWのファーストチョイスにいる状況を覆すことができなかったのだ。

 ロランド・マラン監督はベルヘッシオを固定させるだけでなく、「チームを助ける動きという点では森本よりも代役にふさわしい」という理由で、セリエAはおろかBの出場経験すらなかった21歳のスレイマニ・ドゥカラをバックアップととして選ぶ始末。それでも森本にはセリエA通算19ゴールという実績があり、11月末のパレルモとのシチリアダービーでは先発起用もされている。しかし得点は決められず、それ以前にトップフォームからもほど遠かった。

 エリア内でパスを受けても反転しきれず、マーカーの裏を取って果敢にスペースを攻略するキレも欠けている。何より試合から遠ざかっているため周囲との連係不足は明らかで、縦に走らせるスルーパスやクロスも出てこずに孤立気味となった。それでも試合に出ているうちにリズムはつかみ出し、エリア内でボールを触れるようになるのだが、それと同時にシュートミス。「前でボールを触れたと思うし、楽しかった」と本人が手応えをつかみ出したころには交代だ。結果が出ず、立場は変わらず、再び出場機会は遠ざかる。そして12月21日、アウエーのペスカラ戦では、1−1の後半に得点を期待されて出場しながらカウンターの“逆起点”となってしまう惨状。そしてアディショナルタイムに直接FKが決まり、チームは負けた。

移籍以外に道はなかった

 森本のカムバックを快く迎えてくれたカターニアの地元ファンも、ついにしびれを切らした。「もう顔も見たくねえよ! 将来性がある分、ドゥカラの方がよっぽどマシだ」「点取れるヤツを連れてこいよ」「そもそもコイツ、ノバラでオレら相手に点取った時に喜んでただろうが」。ローカルメディアのサイトや掲示板、SNS上では怒号のような書き込みが確認された。フォームは取り戻せず、結果は出せず、そしてまた試合に出られずという悪循環を断つには、もう移籍以外に道はなかった。

「1月には出る可能性は高い。われわれはそのために動いている。ドイツ、オランダ、そしてポルトガルのクラブと交渉中だ」。代理人のフランチェスコ・ブランキーニ氏は、森本移籍に向けて複数のクラブとコンタクトを取っていた。ただ、決定打はない。ノバラから森本の保有権を全額買い戻し、14年6月まで契約を結び直したカターニアの意志は、完全移籍による売却。結果の出せていないFWに対する投資を躊躇(ちゅうちょ)したのか、彼らを納得させるオファーは届かなかった。

「本人は欧州移籍を望んでいる。Jクラブへの復帰はあり得ない」とブランキーニがこだわる一方、焦燥を露にする森本は「今試合に出続けたいという気持ちがあるので、可能性としてはなくはないと思います」と告白するなど、意志の食い違いも見られた。

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著者プロフィール

1973年9月28日、福岡県生まれ。東京外国語大学外国語イタリア語学科卒。97年の留学中にイタリアサッカーの熱狂に巻き込まれ、その後ミラノで就職先を見つけるも頭の中は常にカルチョという生活を送り、2003年から本格的に取材活動を開始。現在はミラノ近郊のサロンノを拠点とし、セリエA、欧州サッカーをウオッチする。『Footballista』『超ワールドサッカー』『週刊サッカーダイジェスト』等に執筆・寄稿。まれに地元メディアからも仕事を請負い、08年5月にはカターニア地元紙『ラ・シチリア』の依頼でU−23日本代表のトゥーロン合宿を取材した。

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