敗れ去りしJ内定選手、輝いた未来のスター候補たち=高校サッカー注目選手の戦いを振り返る

安藤隆人

来年は宮古・宮国、帝京大可児・杉本、三島らに期待

宮古は強豪・前橋育英に大敗を喫した。エース宮国を中心に戦う来年も選手権の舞台に帰ってこられるか 【写真は共同】

 次に来年を期待させる、きらりと光る2年生の才能たちをピックアップしたい。
 東京から約2040キロの離島・宮古島からやってきた宮古(沖縄)。2年生エース・宮国泰吾は独特のリズムを持つアタッカーだ。スピードがあり、ボールを受ける前の動き、受けてからの展開の速さは非常にスムーズで、パスの精度、裏への飛び出しには天賦の才を感じる。宮国の魅力は攻撃センスだけではない。「危険なスペースを見つけたら、ディフェンスラインだろうが戻って止める」と話すように、スペースを見つける目は、攻撃だけでなく、守備にも向けられ、時にはCBの位置まで戻ってスペースを埋めたり、シュートブロックをしたりと、高い献身性を併せ持つ。

 攻守においてスペースを感じ取れる視野の広さとフットボールインテリジェンス、そしてオフ・ザ・ピッチでの非常に謙虚な姿勢は、将来性を感じさせてくれた。初戦で強豪の前橋育英(群馬)に1−5と大敗を喫したが、それでも宮国の評価が落ちることはない。来年もまたこの舞台に帰ってきてほしいタレントだ。

 帝京大可児(岐阜)の2年生二枚看板・MF杉本太郎とMF三島頌平の2人も楽しみだ。杉本はAFC(アジアサッカー連盟) U−16選手権でMVPに輝いた逸材。ギャップに入る動き、入ってからのアイデアの多彩さが魅力で、シュートセンスも光るセカンドアタッカーだ。
 一方、三島は周囲に良質のパスを供給することで貢献する。どうしても杉本の陰に隠れてしまいがちだが、彼もまた来年は目玉選手となるひとりだ。ボールを持った際の落ち着き、視野の広さ、そして高いキックの精度と、ゲームメーカーとして高い能力を持つが、今大会は負傷明けとあって、ベストパフォーマンスを見せられなかった。だが、杉本とのホットラインは来年、他チームにとって大きな脅威となるだろう。

 作陽(岡山)のスピードスター・MF平岡翼は、今大会で大きなインパクトを残した。初戦の富山一(富山)戦で決めたロスタイム弾は見事の一語に尽きる。爆発的なスピードだけでなく、強烈なパンチ力を兼ね備え、速いだけだった1年生のころから飛躍的な成長を遂げた。クイックネスや野村雅之監督の高い戦術眼を身体に浸透させたことで、単発ではないバリエーションある仕掛けが見られるようになった。この成長を来年も続ければ、Jクラブが争奪戦を繰り広げる選手になるだろう。

1年生ながら高いポテンシャル秘めたタレントも

 最後に、可能性を感じさせたルーキー、つまり1年生をピックアップしよう。
 前橋育英の1年生ボランチ・MF鈴木徳真は小柄な選手だが、ポジショニング、試合の流れを読む力は非常にクレバーで大人だ。U−16日本代表では攻守の要として、相手の攻撃の芽を摘み取りながらも、ポゼッションサッカーの中核を担った。「今年はもうこいつしかいないでしょ」と山田耕介監督が語ったように、かつて故・松田直樹、青木剛(鹿島)、小島秀仁(浦和レッズ)らが背負った、伝統のエースナンバー背番号14を、1年生ながらも託されたことが、期待の大きさを表していた。

「最初は……ちょっとビビりました。『何で僕が?』と思いましたが、今はそれに恥じないプレーをしたい」。だが、初戦の宮古戦は出場できず、2回戦の鹿児島城西(鹿児島)戦では後半10分から出場したものの、チームは0−1で敗れた。背番号14を披露する時間はごくわずかに終わったが、来年はさらに安定感を増した鈴木が不動の存在になることを期待したい。

 長崎総科大附(長崎)の1年生ストライカー・FW安藤翼は、中学時代から名を馳せたタレントである。地元の大分トリニータU−18や東福岡(福岡)、神村学園(鹿児島)など、九州の強豪チームからの数あるオファーの中から、新興勢力の長崎総科大附を選んだ。サイズはないが、ボールを収めるパワーがあり、前線で身体を張ってタメを作ることができる。

 さらにゴール前での嗅覚、ミドルレンジからのシュートも秀逸で、どこからでも点が取れる万能型ストライカーである。その能力を今大会でしっかりと見せつけた。2回戦の香川西(香川)戦での強烈ミドルは、彼の能力が凝縮された一撃だ。3回戦敗退も、「やれる手応えは感じたけど、もっと質を上げないと通用しない部分も分かった」と成長の尺度をつかめた非常に意義ある大会だった。

 そして国立目前で散った東海大仰星(大阪)の1年生ボランチ・江郷下奨も将来が楽しみな存在だ。ガンバ大阪ジュニアユースからユースに上がれなかった悔しさを胸に、チームの和にひかれて東海大仰星に入学。周囲の先輩たちのサポートもあり、レギュラーとして臆することなく、伸び伸びとプレーした。加えて「先輩たちのためにサッカーがしたい」と高い献身性も見せ、攻守においてハードワークできるようになった。

 初戦の聖光学院(福島)戦では、華麗なスルーパスで決勝弾をアシスト。3回戦の長崎総科大附戦は出場できなかったが、準々決勝の星稜(石川)戦では復帰し、チームのバランスを保ち続けた。1年生にしては、十分にその才を披露できた。ただ、大事なのはこれから。サポートしてくれた3年生が抜けたこれからは、より自立したプレーが求められる。献身性を失わずに、攻撃センスを磨くことができるか。この1年は彼にとって、とてつもなく重要な年となるだろう。

 ここで挙げた選手以外にも東海大五(福岡)のFW小林秀征(ファジアーノ岡山入団内定)、創造学園(長野)のFW宮下周歩(松本山雅FC加入内定)など、もっと見たかった選手はたくさんいる。そして立正大淞南(島根)のエースストライカー・FW林大貴(福岡大進学予定)を見られなかったことが、非常に残念だ。彼のゴール前でのセンスはずば抜けていて、泥臭いゴールからファンタスティックなゴールまで、多彩なゴールシーンを見せつけてくれる稀有な存在。大会前の練習試合で鎖骨を骨折し、今大会はスタンド観戦となってしまったが、この悔しさを福岡大でぶつけて、再びゴールを量産してほしい。

 残すは準決勝と決勝の3試合、敗れ去ったタレントたちの涙の分も、国立にたどり着いた4チームには熱い戦いを期待したい。

<了>

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著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

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