京都橘に見る“共学化した私立校”の躍進=下剋上極まる高校サッカー新時代

川端暁彦

稀少となった“伝統校”の名前

3回戦の丸岡戦で先制ゴールを決めるなど、ここまでの対戦校は京都橘・小屋松を止められていない 【写真は共同】

 91回目を迎えた全国高校サッカー選手権だが、近年の大会のキーワードと言えば、やはり“新鋭校”だろう。前世紀までにそのネームバリューを確立した、いわゆる“伝統校”の名前が稀少になり、「これはどこの高校だろう?」と言われるようなチームが次から次へと台頭してくるようになった。栄えある“国立の4校”の顔ぶれが予想できないといった話もあるが、それ以前に開会式で行進する48校の顔ぶれからして、まったく予想できない時代になってきている。
 
 今年の選手権で言えば、京都府代表・京都橘がその象徴ということになるだろうか。
 
 筆者はどうも高校サッカーのことをちょっとは知っている人だと思われているらしく、近年は毎大会「この高校、どういうところなの?」といった質問を受けているような気がするが、今年は京都橘が「どうなの?」となる対象のようだ。「いや、京都橘は前から結構強かったじゃないか」と思ってしまう部分もあるのだが、なるほど確かに選手権に出てくるのは2008年度大会以来2度目のこと。しかも早期敗退していたとあっては、名前が記憶に残っていないのも無理はない。

京都府予選では3番手の扱いだった

 だが、凡庸なチームでは決してない。抜群のスピードで敵陣を突貫する2年生FW小屋松知哉は今大会“ノリノリ”。50メートル5秒8という超快足を生かした強気のドリブルと、同じくらい強気のシュートがさえ渡り、背中の“10番”にふさわしいプレーを見せつけている。ちょっと大人のエレガントなプレーでこの小屋松の個性を引き出す3年生FW仙頭啓矢との2トップは、ここまでの対戦校がいずれも止め切れなかった。
 
 中盤では、ボランチの宮吉悠太が実兄・拓実(J2京都サンガF.C.)とは一味違った巧緻(こうち)さでゲームに絡み、最終ラインでは1年生ながら高い技術と判断力をベースに奮闘する林大樹と高さで勝負できる橋本夏樹のセンターバックコンビが光る。左サイドバックを務める主将・高林幹もハイレベルな選手だが、2、3回戦はまさかの腸炎で欠場。だが、その穴を代役・吉中波緒人が埋めるあたりは、穴を穴と感じさせない、層の厚みも見せ付けた。
 
 これだけのチームが選手権本大会どころか、京都府予選の段階で“本命”どころか“3番手”扱いだった。このことは、逆説的に高校サッカーのクオリティーが底上げされていることを裏付けていると言えるだろう。サッカーの裾野が全国各地に拡大し、ノウハウが拡散することで、戦力の均衡化が進んだ。新たにサッカーへ(この場合はサッカー部へ)大きな投資を行う私立校の絶対数が増えているという事実が、こうした傾向を後押ししている。その一つの象徴が、京都橘なのだ。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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