高橋大輔が実行する「4回転 3年計画」 フォーム改良と精神面での新計画に成果

野口美恵

全日本フィギュアのフリーで、4回転2本を成功させた高橋。「目標」へ向けて、前進を続ける 【坂本清】

「(2008年の)けがのあと、初めて4回転を(フリーで)2本成功させられたし、演技も思いっきり自分の気持ちをぶつけられた。自分にとってココからがスタート。これからはどんな状況でも4回転を入れられるようにしたい。モチベーションが上がってきました」

 22日、全日本フィギュアのフリー演技を終えた直後、高橋大輔(関大大学院)は興奮していた。世界男子の4回転時代を考えれば、トップ争いへの標準装備が「ショートで1本、フリーで2本」。それを08年2月の四大陸選手権以来で成功させ、真の意味で世界王者へのスタートラインに立ったというのだ。高橋の4回転ジャンプ計画は、今どんな段階に来ているのだろうか。

「ショートとフリー1本ずつ」から「ショート1本、フリー2本」へ

 けがをする08年オフまで、4回転は高橋が自信を持てる武器だった。しかし復帰後は、4回転で苦労した。10年バンクーバー五輪では、フリーで挑戦したが転倒。その後、14年ソチ五輪までの現役続行を決めると、3年計画の一環として4回転ジャンプの目標を立てた。

 まず昨シーズンは、世界選手権までに「ショートとフリーで1本ずつ決める」こと。すると、今からちょうど1年前の全日本選手権ショートで、「いつか絶対やらなきゃいけない時が来るから、攻めた」と、4回転+3回転を見事に成功させた。ショートでの成功は実に7シーズンぶりだった。
 そして続く12年世界選手権で、目標通りショートとフリーで1本ずつ成功させると、銀メダルを獲得した。
「けがしてから、ここまで本当に遠かった。銀メダルよりも、4回転のショートとフリーでの成功に意義がありました。五輪でメダルを取っても自信を取り戻せなかったけれど、やっとけがのあと、自信を取り戻せた気がする」と手応えを見せていた。

 次なる目標は、世界トップ選手らが挑戦している「ショートで1本、フリーで2本」だった。しかし、「各プログラムで1本ずつ」と、「フリーで2本続けて」とには、二重の壁がある。ひとつは、体力を消耗する4回転を2本入れて、後半にスタミナが持つかという「体力面」。もうひとつは、1本目でいったん精神力も体力も使った直後に、もう一度2本目へ集中する「精神面」だった。

逆の発想「効率の良い4回転」

全日本フィギュアのフリーで、4回転に臨む高橋 【坂本清】

 体力面については、普通なら「スタミナをつける」と考えるところを、逆の発想を持ち込んだ。それは、「体力を使わない、効率の良い4回転」を身につけることだった。その裏には、世界屈指の4回転ジャンパーだった本田武史コーチの存在がある。本田コーチは言う。

「僕は現役時代、4回転ジャンプは体力を使わず、タイミングで跳ぶフォームが確立していました。だからジャンプでは全然疲れなかったし、後半に4回転があっても問題なく跳べたんです」

 一方、けがをする前までの高橋は、トウを強く突き、力を使って高く跳び上がってから4回転する、というものだった。どちらかというと真上に跳び、着氷もドーンと大きな音をさせて降り、摩擦がかかるため流れが止まる。こういった体力を使うジャンプのままでは、2本入れたら後半はスタミナ不足になる。本田コーチは、プロの目で高橋の4回転を改良していった。高橋はこう振り返る。

「実際には、力を使わずにタイミングで跳ぶ方が楽だし、正しいというのは分かっていたけれど、以前は苦手だったんです。今は、効率の良い、無駄な動きをせずにタイミングを使って跳べるジャンプを目指しています。苦労しましたけれど、けが後から取り組んでやっと身についてきました」

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著者プロフィール

元毎日新聞記者、スポーツライター。自らのフィギュアスケート経験と審判資格をもとに、ルールや技術に正確な記事を執筆。日本オリンピック委員会広報部ライターとして、バンクーバー五輪を取材した。「Number」、「AERA」、「World Figure Skating」などに寄稿。最新著書は、“絶対王者”羽生結弦が7年にわたって築き上げてきた究極のメソッドと試行錯誤のプロセスが綴られた『羽生結弦 王者のメソッド』(文藝春秋)。

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