優勝候補筆頭の東北の雄は初戴冠なるか=高校選手権・注目校紹介 青森山田編
強固な組織で構成された鉄壁の守備
U−17W杯にも出場した室屋は、その守備力とサイドの突破に定評がある 【平野貴也】
戦術的なベースとなっているのは、プレッシングとショートカウンター。守備はDF、MF、FWの3ラインの間隔を狭めて、ポジションの近い選手とユニットを組んで明確な連係で相手を追い込む。夏を過ぎてからは、リーダーシップが取れるDF小松崎雄太の成長があり、黒田剛監督が「足下もあるし、ヘディングも強いし、ゴールも取れる」と評価する182センチの長身レフティー、縣翔平をセンターバックからボランチにコンバート。よりアグレッシブで強固な組織を作り上げた。
青森山田がその守備力をいかんなく発揮したのが、7月に行われたアウエーでの流通経済大柏との一戦だった。中盤のプレッシングで相手の自由を奪い、サイドからのドリブルでの仕掛けに対しては、昨年のU−17ワールドカップ(W杯)に出場したDF室屋成が1対1での強さを示して相手の攻撃を寸断。流通経済大柏の本田裕一郎監督も「うちがシュートゼロなんて、こんな記録は見たことがない。相手の右(サイドバック)の子はいい。うちのサイドも悪いとは思えないんだけど、一度も勝てなかった」と敵将も脱帽の完封勝利を収めた。
10月の東京ヴェルディユース戦は3−4で敗れたが、この試合でも守備は効いていた。ただし、後半早々に守備ラインの背後を突かれて連続失点を喫したために敗戦。黒田監督が「精神面のスタミナ」と指摘する集中力の欠如をいかになくすかが問題だ。
野洲との初戦は大会屈指の好カードに
兄・椎名伸志は選手権で準優勝だった。弟の政志はその成績を越えることはできるのか 【平野貴也】
中盤でゲームメークを務める椎名は、3年前の第88回大会で柴崎岳(鹿島アントラーズ)らを擁して準優勝した青森山田の主将を務めていた椎名伸志の弟。今大会では、兄を超え、初戴冠を狙う。速攻ばかりでなく、ボランチの縣らが押し上げる遅攻も力強さがあり、右サイドバックの室屋は豊富なスピードと運動量を生かしたオーバーラップで攻撃面でも貢献する。室屋は明治大への進学が内定しているが、J1清水エスパルスからオファーを受けたほどの実力の持ち主だ。
選手の能力や戦術浸透度は、間違いなく高校サッカー界トップクラスの青森山田。悲願のタイトル奪取に向けた攻撃の課題は、リーグ戦と異なる状況への対応力となる。プレミアリーグでは強豪クラブユースにボールを支配される時間が比較的長いが、高校勢との試合では逆にボールを持つ時間が長くなる。黒田監督は「攻撃はサイドからは結構、崩していける。右で崩して左とかその逆とか、パターンもある。そんなに俊足ぞろいではないけど、攻撃の質を上げて、人数をかけられれば良い。ただ、選手権のことを考えると、相手にベタ引きをされても(リーグ戦より短い時間で)点を取らなければいけない。高校勢との試合では、こっちがイニシアチブを取ったときに、奪ってすぐにカウンターとかこっちがやりたいことを相手にやられる場面が出てくる。高校総体(で敗れた準々決勝)の武南戦もそうだった。試合の流れを常に意識してやっていかなければいけない」と試合運びの注意点を指摘した。
ボランチの縣も「ポジションが中盤に変わったので、ゴールにつながるパスやシュートなど試合を決めるような仕事をしないといけない。ただ、ボランチの位置でボールを失えば、一気にピンチになる。ボールを失わないように意識したい。選手権は最後の大会。東京Vユース戦のような失点は、後悔する。失点ゼロに抑えることを課題にやっていきたい」と攻守のバランスを気遣った。
そんな青森山田の初戦の相手は、室屋とともに昨年のU−17W杯に出場したMF望月嶺臣を擁する技巧派集団の野洲(滋賀)だ。いきなり、大会屈指の好カードとなった。野洲の攻撃陣は、ショートパスのコンビネーションとドリブルを多彩に使い分ける。青森山田としては、プレッシングで相手の選択肢を減らせるかどうかが生命線になりそうだ。高校サッカー界は戦国時代を迎えており、今大会も都道府県予選で多くの有力校が姿を消した。そんな中で、プレミアリーグイーストの某クラブユース監督は「青森山田に勝ってもらわないと困るよ。プレミアが大したことないと思われる」と冗談交じりにエールを送った。厳しいリーグでもまれてきた。難敵撃破で勢いに乗れば頂点へ上りつめるだけのポテンシャルは秘めている。果たして東北の雄は1発勝負のトーナメントで真価発揮なるか。
<了>
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