広島ユース森山監督の辞任がもたらす影響=世代の急務となった“ゴリイズム”の継承

安藤隆人

Jユースと高校サッカーが融合した広島ユース

広島ユースでJユースと高校サッカーが融合した理想のチームを作り上げた森山監督。今季限りでの退任が惜しまれる 【写真:佐藤博之/アフロ】

 12月19日に行われた高円宮杯U−18プレミアリーグ・チャンピオンシップで、東京ヴェルディユースを4−1で下し、3連覇を成し遂げたサンフレッチェ広島ユース。広島ユースの存在は、ただ単に強いだけではなかった。広島ユースが日本の育成界にもたらしたもの。それはJクラブユースにおける、“がむしゃらさの追求”だった。

 日本の育成界では、よくJクラブユースと高校サッカーの比較をすることが多い。Jユースはこうだ、高校サッカーはこうだと。この議論は正直あまり好きではない。それはどちらにも良さと悪さがあり、大事なのはそれをいかに融合させて、日本独自の育成スタイルを築いていけるかだ。それともそれぞれが独自色を出すことで、子どもたちにいろいろなバリエーションの選択肢を与え、自分に合った進路を選べるというメリットを生み出せるか。これこそがJユースと高校という選択肢が持てる日本の育成年代のメリットであり、どちらか一方がいいという議論は不要であると考える。

 論点がずれてしまうので、この話はここまでにしておくが、広島ユースの存在はまさに“Jユースと高校サッカーの融合”と言っていい。Jクラブの下部組織らしく、テクニックやパスセンスなどに優れた選手がいるが、彼らはむき出しの闘争心で戦いに挑んでくる。高校サッカーはどちらかというとメンタルの強い選手が育つ。当然、テクニックやサッカーの質を追求した素晴らしい指導者は全国各地にいる。だが、その中でメンタリティーをおろそかにしている指導者は少ない。高校出身者の方が勝負にこだわり、最後までチームのために戦い切れるということに関しては、今の日本代表のメンバー編成を見ても分かる。

 その要素を広島ユースが持っている。持っているというより、むしろ高校サッカーのそれを凌駕(りょうが)しているかもしれない。広島ユースには終盤になっても落ちることのない運動量、終盤になればなるほど高まる集中力と闘争本能がある。まさに“鬼に金棒”というチームだからこそ、どのチームも脅威を感じ、3連覇という偉業も成し遂げられたのだ。

「まあ、ウチはね、本当に執念深いよ(笑)。『サンフレッチェ高校』だと高校サッカーの指導者の皆さんに言ってもらえることはね、Jユースの中では一番の褒め言葉なんですよ(笑)。いつもJユースのことを言われる時に、『Jユースの子たちはうまいけど……』が多いんです。苦しい時に仲間やチームのためにやっているのか、苦しい時にこそ体を張れるか。そこはJユースは足りていないのは事実。だからこそ、僕は高校サッカーにバカにされないJユースチームを作りたいんです」(森山佳郎監督)

ユース年代の指導者が尊敬と信頼を置く存在

 この言葉を愚直なまでに実行する森山監督に、“ゴリさん”という愛称とともに、厚い尊敬と信頼を置いているJユースの指導者も数多くいる。

 横浜Fマリノスユースの松橋力蔵監督もその一人だ。「ゴリさんの考えはすごく勉強になる。ゴリさんのチームには絶対に負けたくない気持ちになるし、サッカーに関する大事な部分、戦う姿勢、球際の強さ、前への力などを教えてくれる。本当に大きな存在です」と語ったように、松橋監督もまたチームを最後まで戦い切れる集団にするべく、テクニックや戦術を生かしながらも、局面で戦える選手の創出に尽力した。実は横浜FMユースも逆転勝利や、劇的な勝利が多いチーム。常にユースの大会では上位に顔を出し、年を重ねるごとにタフなチームになっている。

「ゴリさんが指導者になる前から、選手として一緒にやっていた仲でした。引退するときもフィールドを変えて、お互いやりましょうと言っていた。ゴリさん率いる広島ユースは、あれだけ多くの選手を育成してきたクラブだし、僕はユース年代で1番だと思っている。あそこに肩を並べたい、追い越したいという気持ちで今もやっているんです。それは僕だけではなく、ほかのJクラブもあそこに勝てるチームを作ることが、選手の質を上げることにつながると思っていると思う。僕も間違いなくそう。だからこそ、今回辞めることは寂しい気持ちでいっぱいです」と語るのは、名古屋グランパスU18の高田哲也監督。

 高校の指導者もまた、広島ユースに対し厚い尊敬と信頼を置いている。青森山田の黒田剛監督は、「ゴリさんは人間的に素晴らしい人。高体連的に選手に厳しく、バリバリできるのはゴリさんの魅力だし、これこそ本当にユース年代に必要なこと。選手に気を使いすぎている指導者がいる中で、そこで心を鬼にできる存在なんです。自分の意見をしっかりと言える。役職だけもらって、うわべで話すのではなく、自らの力で地道に作り上げて発言権を得た人だからこそ、訳が違うし、レベルが違う。間違いなく日本の指導者の宝なんです」と語る。

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著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

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