中島裕之のメジャー成功を左右する3つの関門

中島大輔

メジャーで活躍の鍵握る中島の自然さ

慣れ親しんだ所沢の西武球団事務所で記者会見する米大リーグ、アスレチックスの中島裕之=21日午後 【写真は共同】

 12月21日、グレーのスーツ姿で西武ドームに隣接する球団事務所の会見場に現れた中島裕之は、実に晴れやかな表情で話し始めた。
「今年は無事にチームが決まって、向こうで入団会見をしてから帰ってくることができました。12年間西武ライオンズでやらせてもらって、いろいろサポートしてもらった監督、コーチ、スタッフに感謝したいです。ずっと応援してもらったファンにもお礼がしたい。オフの間にあんまりしゃべらなくて、記者の皆さん、すいませんでした(笑)」

 饒舌になるのは当然だろう。1年前はポスティングシステムで入札したニューヨーク・ヤンキースとの交渉がまとまらず、入団を回避。ヤンキースの評価は控え内野手と高くなかった。
 海外FA権を獲得した今年は日米から複数のオファーが届き、オークランド・アスレチックスと2年総額650万ドル(約5億5000万円)、3年目の選択権は球団側が持つ条件で契約を結ぶ。アスレチックスは今季ショートのレギュラーを務めたスティーブン・ドルーがボストン・レッドソックスに移籍し、中島に白羽の矢を立てた。オファーを受けた中島は、「チームの雰囲気がすごく良く、ハングリーな感じのチームと聞いて、そこでやりたいと思った」と相思相愛で入団を決めた。

 12年間のプロ生活をすごした所沢から、新天地のオークランドへ。晴れの席で中島が繰り返した意気込みは、「自然にやりたい」という言葉だった。この姿勢を貫けるかが、メジャーで活躍できるかの鍵を握るだろう。

「日本人内野手はメジャーで活躍できない」“偏見”との戦い

 中島にとって第一の関門となるのは、すっかり染み付いてしまった“偏見”だ。日本人の内野手はメジャーで活躍できない、というものである。特に中島が起用される予定のショートは難関で、松井稼頭央、西岡剛、川崎宗則が挑戦してきたが、一定の評価を得たとは言い難い。アメリカ人や中南米出身の選手に肩の強さで劣り、さらには天然芝への対応に苦しむ者が多く、失格のレッテルを張られてしまった感もある。

 ただ、それはあくまで過去の選手たちへの評価だ。ビリー・ビーンGMは「日本人が内野を守れるかは個人の問題」と話している。この点で、中島の姿勢も同じだ。
「(日本人内野手の評価を)自分が変えたろ、と思ってやることもない。感じたままにやりたい。自分が上手くいっても、あかんかっても、向こうでいろんな経験をできればプラスになる」

 高校時代の中島はピッチャーや外野手を務めており、ショートにコンバートされたのはプロに入って以降だ。地肩の強さを生かしてプロ入り4年目の04年からレギュラーの座をつかみ、ゴールデングラブ賞を3度獲得している。そこに至るまでの過程は、試行錯誤の連続だった。
「どうせ練習するんやったらと、自分で考えながら練習してきました。いろんなチームの人を見て、いろいろ学んで。松井稼頭央さんを見たりね。自分でできることをやっていけば、ちょっとずつ上手くなっていくんちゃうかな」

 グラウンドや対戦相手、ボールとすべての環境が異なるメジャーでは、ショートの守備に慣れるまでに時間がかかるだろう。中島は「自然にやれたら」と話しているが、まずは最低限のプレーを続けられるかが、「毎日プレーしている姿を見せたい」という目標へのポイントになる。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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