新鋭校の台頭や人材の拡散が進む高校サッカー=“戦国時代”を迎えた選手権の新たな楽しみ方

川端暁彦

選手権で見つける次の世代の“長友”

 選手権は純粋に“寒い”大会である。試合は熱いが、気候としての寒さはいかんともし難い。真冬という屋外スポーツの観戦に全く向いていない時期に行われるのだから、そこで試合を楽しむには、ある種の動機付けが不可欠だ。

「どこのカードを見に行けばいいですか? お勧めは?」
 この時期、そんな質問をよくちょうだいする。僕の答えは決まっていて、「何か縁があるチームを見に行くのが一番いいですよ」とまず勧める。父母や学友、OBといった当事者による選手権の楽しみ方は極めて明確であり、説明するまでもない。特別な熱気と一体感があるバックスタンドで、贔屓(ひいき)の高校を応援する楽しみは、何かに置換できるようなものではない。どこかのJクラブのサポーターであれば、入団してくる選手がいる高校を、やはりバックスタンドで見るのが一番だろう。その選手の能力とパーソナリティーが分かるし、どれだけ愛されて育ってきた選手かということも体感できる。いざプロデビューとなったときの感慨が違うはずだ。

 逆に何の縁もない人、しかしサッカーが好きで好きでたまらないという方には「長友佑都を探しませんか?」という話をする。プロに行くことが決まっていて、メディアに大きく取り上げられている選手の話は自然と耳目に飛び込んでくるだろう。そうではなくて、扱いは小さいかもしれないけれど、「こいつ、化けるんじゃね?」と思える“ブックマーク選手”を見付けるのは、今日における選手権の一個の楽しみ方だ。

 中学時代に名を成している早熟の選手のほとんどはJクラブが刈り取っているだけに、選手権に残っている未来の代表選手は“晩稲”タイプとみることができる。その典型が、今から8年前、東福岡のアンカーとして、市立船橋を相手に奮闘した長友だった。驚異的な運動能力は当時から際立っていて、大会前に小さな枠で注目選手として紹介記事も書いている。もちろんここまでの選手になるとは想像もつかなかった。ただ、「こいつ、面白ぇな」と感じた記憶は残っていて、彼の雄飛にはある種のカタルシスがある。高橋秀人(前橋商→東京学芸大→FC東京)や永井謙佑(九州国際大附属→福岡大→名古屋)などもそうだったが、こういう選手を探す楽しみというのは、今日の選手権にも確実にあるのだ。どちらかというと、サッカーファンの気質として、有名選手の品定め、場合によってはダメ出しが多いように思うのだが、“無印良品”の発掘も面白いと勧めておきたい。

今後、飛躍が期待される選手がめじろ押し

 今年の選手権で言えば、八千代(千葉)の大型DF柳育崇、正智深谷(埼玉)の怪物FWオナイウ阿道、仙台育英(宮城)の190センチのルーキーDF熊谷駿、青森山田の万能ビッグマンMF縣翔平、富山第一(富山)の高速アタッカー・貫場貴之、星稜の1年生ボランチ平田健人、帝京大可児(岐阜)のレフティーMF野倉大輔、作陽(岡山)の韋駄天(いだてん)MF平岡翼、鵬翔(宮崎)の超高速ウイング中濱健太など、名前を挙げたくなる選手がめじろ押しだ。大津に至っては無印良品の宝庫のようなチームで、植田や同じく鹿島内定の豊川雄太だけを見るのは“もったいない”。なかでも中盤の野田卓宏、児玉卓也のプレーは必見だし、野口航、土肥大輝の両ドリブラーも素晴らしい素材だ。葛谷将平という“秘密兵器”の1年生もいる。友人の平野貴也記者は創造学園の2年生MF堂安憂を猛プッシュしているが、そういう自分だけの“ブックマーク選手”を探してみてはどうだろう。

 もちろん選手権の楽しみ方は百人百様だろうし、それでいいと思っている。ただ個人的には、有名選手にダメ出しするよりも、無名の新しいタレントを探すほうが「百倍楽しい」という確信がある。今は粗削りでもキラリと光る個性があって、伸び盛り。そんな選手を見つけに行くのも、今日における選手権の楽しみ方。それは自信を持ってお勧めできる。

<了>

『エルゴラ・プリンチペ高校サッカー名鑑』

季刊エルゴラ2012冬 エルゴラ・プリンチペ高校サッカー名鑑 【エル・ゴラッソ】

 今年もまた高校サッカー選手権開幕に合わせ、『エルゴラ・プリンチペ高校サッカー名鑑』を発売させていただきました。出場全48校完全名鑑に加えて、注目選手の紹介などを掲載しています。

 また今回はFC東京の高橋秀人選手に高校時代の思い出を語っていただきました。あまり語られたことのなかった前橋商での無名時代。興味深いエピソード満載です。出場校からは前年度準優勝、四日市中央工の樋口士郎監督に“国立に棲む魔物”について、そして名門・大津の平岡和徳監督には選手育成哲学について大いに語っていただきました。

 今年も引き続き“もう一つの高校選手権”であるJユースカップにもフォーカス。別角度からも高校年代のサッカーに光をあてています。

特別定価:680円
全国書店にて好評発売中!
680円(税込み)
A4変型/オールカラー/84ページ

主要コンテンツ

●日本代表の証言
高橋 秀人(FC東京)
「高校生には、今の頑張りを大事にして欲しい」

●選手権の群像
植田 直通(大津→鹿島)
望月 嶺臣(野洲→名古屋)
室屋 成(青森山田)
小塚 和季(帝京長岡→新潟)
浅野 拓磨(四日市中央工→広島)
田村 翔太(四日市中央工→湘南)
杉本 太郎(帝京大可児)
オナイウ 阿道(正智深谷)

●出場48校完全名鑑
登録選手&詳密チーム紹介を完全網羅

●監督インタビュー
樋口 士郎監督(四日市中央工)
「国立に棲む魔物を退治に行く」

平岡 和徳監督(大津)
「大津は“変態”を育てたい」

●敗れてなお輝く男たち
谷村憲一(盛岡商)、渋谷飛翔(関東第一)、金森健志(筑陽学園)、渡辺夏彦(國學院久我山)ほか

●Jユースカップ特集
ベスト4選手名鑑
「広島ユース、札幌U−18、G大阪ユース、横浜FMユース」

●コラム
「ファジアーノ岡山U−18に見る、今日的Jユース事情」

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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