“真の復活”へ、川口能活が踏み出した未来への一歩=大けがを乗り越え、9か月ぶりに復帰

元川悦子

「正直、心が折れそうな時期があった」

プロ20年目を迎える来季、川口の“真の復活”が期待される 【写真:アフロ】

 30代後半のベテラン選手が、09年からの4シーズンで2年近くも負傷離脱を強いられたら、現役続行の気力を失ってもおかしくない。実際、偉大な先輩・中山雅史もひざのけがという現実を前にキャリアに区切りをつけざるをえなかった。しかしながら、川口能活はあえて困難に挑み続けた。この男の負けじ魂と忍耐強さは常人のレベルをはるかに超えているからだ。

「僕は家族や先生、仲間たちのおかげで、小さいころから気持ちよくサッカーをやれる環境を与えてもらった。30年以上も大好きなサッカーを続けてきて、『1つのことに執着することの大切さ』を学ばせてもらった。だからこそ、このままじゃ終われないという気持ちがすごく強い。もともと負けず嫌いの性格もあるけど、自分には心の底から湧き上がってくる執念があるんです。
 骨折やアキレスけん断裂みたいな重傷を負ったら、ピッチに戻るのは本当に簡単じゃない。正直、心が折れそうな時もあったし、自分自身を見失いそうにもなりました。でも家族や仲間が僕を支えて、勇気づけてくれたし、メディカルスタッフの方々にも常に背中を押してもらった。『サッカーは自分1人だけじゃできないものなんだ』って2度の大けがを経験してよく分かりましたね」と川口はしみじみと語っていた。

 加えて、彼は年齢を重ねれば重ねるほど成長できるという確信を持っている。世界を見渡せば、41歳の元アメリカ代表GKブラッド・フリーデル(トッテナム)、40歳のオーストラリア代表GKマルク・シュワルツァー(フラム)ら川口より年長の守護神たちが最前線で戦っている。イタリア代表のゴールマウスを死守し続けるジャンルイジ・ブッフォン(ユベントス)も間もなく35歳になるが、衰えなど一切、感じさせない。川口はこうした世界的名手たちに大きな刺激を受けている。

「トッテナムのフリーデルがこの夏、移籍してきたウーゴ・ロリスとの競争について『彼は素晴らしい選手。お互いにいい競争をしてレベルアップしていけばいい。うちにはカルロ・クディチーニやゴメスもいるしね』と言っているという話を聞いて、本当に勇気づけられました。40歳を過ぎても周りを認めつつ、自信を持って堂々とレギュラー争いに挑んでいけるメンタリティーはすごい。トップレベルの選手というのはその域まで達しているからこそ、一流なんですよね」と彼は感心していたが、確かに本当に実力があれば、年齢に関係なくピッチに立ち続けることができるはず。フリーデルも11月17日のプレミアリーグ・アーセナル戦以降はロリスに先発を譲る格好になっているが、今季開幕からずっとスタメンで試合に出ていたし、今も存在感が失われたわけではない。

定位置が約束されたわけではない

 来季の川口にもそういう厳しい勝負が待っている。磐田には今季1年間通してゴールマウスを守った八田直樹も自信を深めているし、竹重安希彦ら若いGKも控えている。際立った実績とキャリアを誇る川口といえども、定位置が約束されたわけでは決してない。ゼロからの戦いに勝ち、ピッチに立ち続けてこそ、“真の復活”を果たしたことになるのだ。

「ジュビロ磐田が再びタイトルを勝ち取るには川口の力が必要不可欠」という声も関係者やサポーターの間では依然として根強い。12年の戦いを見ても、川口が出ていた序盤戦はまずまず好調だったが、その後は黒星が多くなり、後半戦に至ってはわずか4勝しか挙げられなかった。一時アジアチャンピオンズリーグ圏内にいたチームの最終順位が12位というのはかなり不本意と言わざるを得ない。今の磐田は山田大記や小林裕紀、金園英学、山崎亮平ら優れた若手がズラリと並んでいて、戦力レベルは非常に高いが、一度崩れ始めると歯止めが利かないところがある。やはり川口という絶対的求心力を持つリーダーと、前田、駒野友一という日本代表に名を連ねる年長者がしっかりとチームをけん引しなければ、J1制覇というのは難しいのかもしれない。

 そういう意味でも、川口能活のフル稼働が待たれるところ。プロ20年目を迎える来季、彼はどう変ぼうを遂げるのか。大けがを乗り越え、円熟味を増したパフォーマンスをわれわれに見せてくれるよう、強く期待したいものだ。

<了>

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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