イチロー、ヤンキースとの再契約に至った4つの条件=“ニューヨーク物語”延長の裏側

杉浦大介

FA市場が人材難の中、残留を熱望

移籍後の活躍とチームへの愛情がイチローをヤンキース残留に導いた 【Getty Images】

 そんな状況下のチームにとって、昨季にニューヨークで力を発揮できることを示し、なおかつ大幅減俸の上でも残留を熱望してくれたイチローは願ってもない存在だったと言っていい。

 やや人材難の今オフのマーケットでは、B.J.アップトン(ブレーブスと5年7500万ドル契約)、アンヘル・パガン(ジャイアンツと4年4000万ドルで再契約)、シェーン・ビクトリノ(レッドソックスと3年3900万ドル)といったお世辞にも超一流と言えない外野手たちが次々と高額複数年契約をゲット。39歳のイチローにも複数年契約を提示するチームが現れ、おかげでヤンキースも当初の1年契約から2年に変更したと報道される。

 ただいずれにしても、前記した選手たちと比べてイチローの年俸650万ドルは極めてお買い得と言っていい。フィリーズは2年1400万ドル、ジャイアンツは2年1500万ドルを提示したと伝えられており、金銭だけを考えれば他にもより好条件のチームはあったもよう。イチローも一時は他チームも模索していると伝えられたが、ただ、そんな動きもヤンキースへのけん制に過ぎなかったのではないか。多少の犠牲を払ってでも残りたいと思うほどに、昨季に3カ月ほど在籍する中で、チームとニューヨークの街に様々な意味であらためて魅せられたのだろう。

イチローが“勝ち取った”再契約

 7月の移籍直後には、イチローとヤンキースの関係は“3カ月のラブ・アフェアー”で終わると誰もが思った。
 あくまで基本的に同タイプのブレッド・ガードナーの代役であり、まだ29歳と若いガードナーが復帰次第、2013年のチームに空きスポットはなくなる。現地メディアで報道された「年齢を重ねたとき、『あれは特別な時間だった』と振り返ることになるのでしょう」といったコメントを読む限り、イチロー本人もその事実を認識しているかのように感じられたものだった。

 しかし、さまざまな条件が重なり、そんなシナリオは変更。3年以上の長期契約を避けたいヤンキースの事情、今オフの外野手マーケットの不作、大型トレードを可能にするチーム内のプロスペクト(有望選手)の枯渇、そして何より、ニューヨークでは水を得た魚のようだったイチローの活躍……これらの内の1つでも欠けていたら状況は変わっていただけに、運命的と言ってもよかったのだろうか。
 いや、最初の3つはある程度は分かっていたことだし、2年契約は今後もチームが主力として起用すると決めた証し。だとすれば「移籍後の活躍とチームへの愛情で、イチローが望む場所との再契約を勝ち取った」と言った方が適切かもしれない。

 「ユーキリス、イチローといった選手との契約は、ヤンキースが認めようとしない真の問題点を象徴している。若い選手が育たず、ベテランで穴を埋める以外に選択の余地はない。おかげでダントツの高齢チームとなってしまった」
 「ニューヨーク・デイリーニューズ」紙のベテラン記者、ビル・マッデン氏の自身のコラム内でのそんな指摘も間違いではあるまい。
 ただ、長い目で考えず、2013年の覇権争いだけをにらめば、まだ力を残したベテランで固めた陣容はそれほど悪いとは思わない。そしてイチローに関して言えば、昨季のトレード以降は驚くほど熱狂的に背番号31を支持したニューヨークのファンは、“ショーの続演決定”を喜んでいるに違いない。

 物語の再開まで、あと4カ月弱――。イチローがニューヨークで描く第2章は、いったいどんなドラマチックな筋書きをたどっていくことになるのだろうか。

<了>

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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