満身創痍の広島が臨む“日韓戦”=広島・佐藤「Jリーグのプライドをかけて勝利する」

中野和也

一度対戦するも現在の力関係は未知数

クラブW杯・5位決定戦で実現した“日韓戦”に「勝利しなければならない」と意欲を燃やす佐藤 【写真:ロイター/アフロ】

 2月19日、サンフレッチェ広島と蔚山現代は宮崎でトレーニングマッチを行っている。広島は開幕の対浦和レッズ戦に向けて、ペトロヴィッチ・スタイルの確実な継承と森保一流の積極的な守備の構築を急いでいた。一方の蔚山現代はACL(アジアチャンピオンズリーグ)を間近に控え、コンディション調整のピッチをあげていた段階。ただ、この試合ではイ・グノら韓国代表組は不在で、ラフィーニャもまだ加入前だった。この時の試合は1−0で広島が勝利したものの、共に現在の実力を反映したものではなかった。

 実際、この試合での蔚山現代は、ほとんどビッグチャンスを構築できずに終わった。セットプレー以外では決定機を奪えず、広島のパスサッカーにボールも奪えない状況が続いた。青山敏弘・森崎浩司が不在だったことも考えれば、広島にとっては上々の出来。しかもこの試合では、高校3年生の野津田岳人が先発し、鋭いクサビから山岸智の得点の起点となっている。当時の蔚山現代が本来の姿ではなかったとしても、広島にとっては悪くはない印象はあるはずだ。

 ただ、蔚山側の視点に立ってみると、広島の情報をこの時に得られたことは、メリットといっていい。青山や森崎浩以外は主力がそろっていた広島の特殊なフォーメーションを体感できたこと。佐藤寿人の特異なスタイルも、高萩洋次郎の存在も、攻守に可変するフォーメーションも、彼らは実戦の中で体感している。今回の大会では、韓国代表がズラリと顔をそろえ、ラフィーニャの存在もある。「本当の蔚山現代」の姿は、広島に知らしめていない。映像資料は当然存在するが、実際に闘うのとまた違った感覚になるはずだ。

 その上、蔚山現代にとっては初戦の「完敗」も大きなモチベーションとなるだろう。「勝てばチェルシー」というモンテレイ戦、彼らは全く自分たちの力を出せなかった。特に前半は、モンテレイのパスワークに圧倒され、ほとんどボールに触れない状態。引いてブロックをつくっても、目まぐるしい彼らのパス交換に幻惑され、最後は完璧に崩された。クリアしても拾われ、中央を閉めてもサイドから持ち込まれ。イ・グノの無回転シュートで一矢は報いたが、アジア王者らしい力強さを発揮することもなく、試合終了の笛を迎えた。

 もちろん、これが彼らの実力とは思わない。ただ、絶対に勝利が必要な状況の中、緊張感に身体も固くなっていた。そこに試合開始からモンテレイのハイプレスに惑わされ、ペースを握れずに終わったというゲーム。その屈辱が、次の広島戦への高いモチベーションにつながることは、想像に難くない。しかも、クラブレベルの“日韓戦”。気持ちが高ぶらない方がおかしい。

「勝って今年最後の試合を締めくくりたい」

 一方の広島は、メンバー構成上、難しい判断に陥るかもしれない。アルアハリ戦で8針を縫うけがを負ったGKの西川周作は、翌日の練習にも元気に参加しているが、出場の可否がどうなるか。左足の違和感を感じてハーフタイムで交代した森脇良太の出場については、筋肉系のトラブルだけに微妙。ほかの選手のコンディションについても、優勝後のさまざまなイベントや中2日の試合が続いたこともあり、決して万全ではない。

 何よりも、十分な練習ができないことが、広島にとっては痛い。「特別な組織力を持つ」とアルアハリの監督に称された広島のコンビネーションサッカーは、日々の練習の中で微妙な感覚を研ぎすましながら作り上げてきた。日々の練習において細かな感覚のズレを調整し、すり合わせを繰り返しながら試合に臨むのが広島スタイル。それだけに、優勝決定後の3週間の練習をほとんどコンディション調整に使わざるをえなかったことが、果たして試合にどう影響するか。アルアハリ戦は素晴らしい内容を見せてくれたが、最後にゴールできなかったこと、守備に甘さが見られたことも事実。その修正を施すには、あまりに時間が足りない。

 とはいえ、柏レイソルやFC東京を倒してACL優勝を果たした蔚山現代に「勝ちたい」というモチベーションは高い。佐藤寿人は「蔚山現代戦は大事な試合。決して消化試合ではない」と前置きした上で「相手はアジア王者。Jリーグのプライドを賭けて、勝利しないといけない。かつてJリーグでプレーした選手もたくさんいるし、今年はキャンプでも対戦していることもあって、互いによく知っているチーム。アルアハリ戦の悔しさを取り返すためにも勝って、今年最後の試合を締めくくりたい」と語る。また森崎和幸は「一つでも順位を上で終えたい。今年は良い1年だったと言えるようにするためにも、また来年ACLを勝ち抜いて再びクラブワールドカップに戻ってくるためにも、勝利したい。世界の舞台で闘って、自分たちの力が全然通用しなかったのなら仕方ないが、そうではなかった。最低でもベスト4にはいけたという印象だったし、それを証明したい」と意気込む。

 天皇杯をすでに敗退した広島にとって、明日の蔚山現代戦が今季最後の公式戦となる。クラブ創設以来最高の1年となった2012年を締めくくるにふさわしい熱戦を期待したい。そしてできれば勝利して、16日に行われる優勝パレード・優勝報告会に臨みたい。

<了>

(協力:FIFAクラブワールドカップ事務局)
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著者プロフィール

1962年生まれ。長崎県出身。広島大学経済学部卒業後、株式会社リクルートで各種情報誌の制作・編集に関わる。1994年よりフリー、1995年よりサンフレッチェ広島の取材を開始。以降、各種媒体でサンフレッチェ広島に関するリポート・コラムなどを執筆。2000年、サンフレッチェ広島オフィシャルマガジン『紫熊倶楽部』を創刊。近著に『戦う、勝つ、生きる 4年で3度のJ制覇。サンフレッチェ広島、奇跡の真相』(ソル・メディア)

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