高橋大輔がつかんだ成功体験 SP首位からの精神コントロールで優勝=GPファイナル

野口美恵

SP首位という緊張

SP首位で発進した高橋。「すごく緊張」しながら、フリーに臨んだ 【坂本清】

「ファイナルには縁がないのかなって思っていたので、まさかこういう形で巡り合えるとは。(5位だった)モスクワの世界選手権(2011年)で辞めないで良かったな」
 19歳での初出場から、けがで休んだシーズンを除いて毎季グランプリ(GP)ファイナルに進出はするものの、優勝だけは壁に阻まれてきた高橋大輔。8日、7度目のGPファイナルで日本男子初のタイトルをつかんだ。
 高橋は言う。

「順位を考えずに、自分の演技をできたのが良かった」

 一瞬、当たり前のように聞こえるセリフ。しかしこの言葉こそが、今大会で高橋が見せた成長のカギだった。

 これまで7度のGPファイナルのうち、07年、09年はショートプログラム(SP)で首位に立った。しかし07年は、首位に立つと「すごい緊張でした」と言い、フリースケーティング2位で総合2位に。09年は「気負ってしまった」と言い、4回転で転倒、トリプルアクセルはパンクするなどジャンプミスを連発し、総合5位と苦杯をなめた。

 一方、SP首位でなければ勝てるかというと、
「SPプログラムで2位や3位だと、優勝したいという気持ちが強く出過ぎる」
と言う。こういった心理的なコントロールはどの選手も抱える課題だが、つとに若手選手は勢いに任せがちになる。経験豊富な26歳は今シーズン、SP後の精神コントロールを重要な課題に位置付けた。

テレビでチェック「みんなレベル高い」

 この伏線となったのが、11月の中国杯だった。SPは首位発進したものの、フリーは4回転2本を含む4つのジャンプでミスが重なり、総合2位に。優勝を奪った町田樹(関大)が、早々とGPファイナル進出を決めた。高橋は振り返る。
「(直前に行われた)スケートアメリカとスケートカナダをテレビで見たんです。日本男子だけじゃなくて全員のを、気になって見ちゃって。みんなが良い成績を出していたので、『レベル高いな、4回転必須だな』って。普段だったらここまで動揺しないのに、動揺しちゃったんです。それだけ自分が弱いってことです」

 高橋は考えた。
「やっぱりアスリートだし順位のことは漠然とは気にするけれど、それとは別に自分の意識をコントロールしないといけない」
 SPの順位に捕らわれることなく、フリーでどこまで自分の演技に集中できるか、それがGPファイナルの課題となった。

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著者プロフィール

元毎日新聞記者、スポーツライター。自らのフィギュアスケート経験と審判資格をもとに、ルールや技術に正確な記事を執筆。日本オリンピック委員会広報部ライターとして、バンクーバー五輪を取材した。「Number」、「AERA」、「World Figure Skating」などに寄稿。最新著書は、“絶対王者”羽生結弦が7年にわたって築き上げてきた究極のメソッドと試行錯誤のプロセスが綴られた『羽生結弦 王者のメソッド』(文藝春秋)。

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